2000年 12月 の投稿一覧

高校野球の指導について-その2|ニュースレターNO.013

前回に引き続き、丸子実業高校での野球部の指導のトレーニングプログラムについて少し詳しく紹介します。野球に限らず高校生の競技者に対する指導の重要なポイントは、実質わずか2年と2~3ヶ月で最大にレベルアップしなければならないということです。

このことを考慮したトレーニングプログラム、すなわち、限られた時間で最高のパフォーマンスを発揮するためには、今、何を優先すべきか?ということを考えたものでなければならないということです。すべての活動に意味があり、無駄な時間は1分、1秒もつくらない、という姿勢が大切です。

以下に丸子実業高校の野球部が、どのような考え方でトレーニングプログラムが実施されているのか具体的に紹介しながら説明したいと思います。

 

トレーニングの考え方

まず、パワー系のトレーニングは、ウォームアップの中で行います。筋力トレーニングは朝と練習中に組み込むことにしました。練習のスタート段階では、からだも元気、頭のもすっきりしているはずですので、パワー、スピード系の練習に最適なタイミングです。

ウォームアップをからだほぐしと考えるのではなく、関節運動をした後、バランスエクササイズ、パワー系のエクササイズ、そしてスピード練習を入れ、時間があればその後にストレッチングを入れます。ウォームアップでは、スタティックなストレッチングはやらず、ダイナミックな動的な(関節)運動を十分に行います。スタティックなものやPNFストレッチングはクールダウンに入れるようにしました。

ウォームアップのパワー系のエクササイズは、主にプライオメトリックスです。それといっしょにバランスエクササイズも行います。例えば、プライオメトリックスの片足連続ホップや両足連続ホップを10~20m段階的に長くして2本というように、5~10種目ジャンプ系のものを2本ずつ行うだけでも、毎日のウォームアップでやるわけですから、その累積効果は想像以上のものがあります。

特に1年生の4月と秋の状況では、極端な変化が見られますし、3年生になるまでレベルアップが見られ、プライオメトリックスをダイナミックにやれるようになります。基本的には下肢のエクササイズが中心ですが、これが打撃やスローイング、フィールディングに多大な効果をもたらせます。

下半身から投げる、打つ、走るパワーが生み出されるのです。同時にバランスエクササイズも行うことで、フィールディングでのバランスが良くなります。

 

バランスエクササイズについて

バランスエクササイズは簡単なものです。例えば片足でホップした後、フラットに足をついて「ピタッ」と止まります。これを繰り返すだけです。いろんなやり方で数種目行います。これでプレイ中の捻挫はいっさいなくなりました。

からだづくりには、運動、食事、睡眠が何より大切です。このバランスの崩れが、結局故障や体調不良を招くことになります。コンディショニングの不良です。

現在のウォームアップ時間は、最初のジョギングから関節運動、バランスエクササイズ、プライオメトリックス、ダッシュまで40分です。この中にトレーニングの基礎となるものがあるので、練習後に特別にトレーニングの時間を設けていない、というより、不必要なのです。

では筋力トレーニングはいつやるのかというと、2回に分かれます。1つは体幹部を強化する腹筋と背筋のエクササイズで、朝練の時に行います。あと1つは、大きな筋群を強化するエクササイズで、練習の時間帯に行います。

 

練習について

現在丸子実業の野球部員は60~70人います。上田東でも丸子でも1年生も投げる、打つ、守る練習をいっしょに行いますので、グループ分けをして、サイクル化して練習を進めます。

例えば、全体の守備練習が終わったあと、打撃組、筋力トレーニング組、守備およびボール出し組の3つに分けます。そして全体の練習時間を3等分し、各30~40分間ずつ行い、ローテーションするというシステムです。

したがって筋力トレーニングも30~40分なので、3~5種目程度になり、週5~6回行えば、1つのエクササイズが週に2~3回やるようになります。時間も種目も少ないので集中できます。

監督は、新しいエクササイズを取り入れたときや、たまに状況を見る程度で監視することはありません。エクササイズのチェックは、時折ビデオをとり、それを送ってもらってチェックします。大体オフのトレーニングに入ったときです。

普通なら手抜きをしないか見張りがいると考えがちですが、このチームもそうですが、その必要はありません。なぜならやったものとやらないものの違いがわかっているからです。もっと強くなりたい、うまくなりたい、レギュラーになりたいと選手は進んでやるからです。

3ヶ月、半年経過すれば、その差が顕著に出てきます。それがわかっているので、手抜きする選手はいないし、全員がすごいレベルアップをしています。このような動機づけは部員の数が増えるほど難しい問題といえます。

1年生で脂肪太りで入学してくる選手も多いのですが、1年もたてば10~15kgもシェイプアップします。それから筋肉がしっかりして、がっちりした体つきに変身するのです。2年生以上で脂肪太りした体系の選手は一人もいません。

1年生は、太いやら細いやら、いろんな体型の選手がいますが、彼らもまた1年すれば同じような体型になり、外見から見分けがつかなくなります。

このようにからだつくり、コンディショニングを継続しているので、その成果は、プレイに見事に現れてきます。バットスイングのスピード、打球の速さ、ボールを投げる力も見違えるほど変わります。

以上のように、技術に生かす体力トレーニング(コンディショニング)をいかにプランニングするか、それが問題で、わずか2年と2~3ヶ月で最大にレベルアップしなければならないためにもそれは必要不可欠なことです。技術的な指導に付いても、身体の使い方、使う順序など、指導のポイントは自然な動きにあると考えています。

作った動きではなく、その個人の身体が持っている自然にできる動きを理解し、アドバイスすることです。それが間違っておれば、「できる」「できた」と言う結果が得られるはずはありません。正しければ、その場でできるようになるはずなのです。動きや技術の指導については、またどこかで話をしたいと思います。

高校野球の指導について-その1|ニュースレターNO.012

高校野球のチームを指導したことが今まで何チームかありましたが、時間が取れなくなったことから、現在は1チームだけです。それは長野県の丸子実業高校です。かつては、甲子園の常連高でしたが、2~3年前までは、ほとんど素人の子どもたちの集まりでした。

チームに監督としてこられたのが、上田東高校で監督をされていた竹内政晴先生です。竹内先生は丸子実業高校の野球部から、国士舘大学の体育学部に進学され、現在体育の先生をされています。高校、大学とハードな野球を経験されてきた方です。

 

竹内先生との出会い

竹内先生との出会いは、上田東高校におられた6~7年前です。名古屋での私のセミナーに参加され、一度チームを見てもらえないかということがきっかけでした。ちょうど良い機会ですので、上田東高校と丸子実業での私の指導経験を紹介し、トレーニング、コンディショニング、指導法というものについて見直したいと思います。野球関係者には非常に参考になる話だと思います。

結局竹内先生の情熱に、一度見せていただいてから、相談しましょうということになりました。それで上田東高校に出かけていき、練習環境や選手のレベルを確認し、野球のトレーニングや指導法についていろいろと私の考え方をお話ししたところ、ぜひ先生のやり方で指導して欲しいということになりました

その頃の上田東高校は、一度甲子園に出場したことがありましたが、やはり素人の子どもばかりで、ボールは投げられない、打っても飛ばない、うまく捕れないという状態でした。部員も20名程度でした。いわゆる普通の高校の野球部でした。

最初の冬にトレーニングのビデオを作製し、エクササイズプログラムと週間計画を添えて送り、とりあえずスタートしました。そして1ヶ月程度経過した春に、上田東高校に出向いてはじめて現場で選手を指導しました。

当然トレーニングのテクニック上の問題も多かったのですが、このときにはウォームアップの指導とプログラムのチェックを行いました。このときに、トレーニングの成果は技術指導によって大きく変わるということを申し上げたら、技術的な指導もお願いしたいということになりました。

当然私の技術指導・動作の指導は、今までの野球界の中で正しいとされてきた指導とは異なるものが多かったのですが、それでも100%受け入れていただきました。

 

6月に行った指導

次の指導は、夏の大会前の6月でした。通常なら、大阪と長野ということなので、夏の新チームの指導、11月の冬のトレーニングの指導、3月の技術的なチェックというように、年に3回程度になるのですが、その他は電話で状況を聞いて対応していました。

私が上田東で指導した4年目となる3年前に母校の丸子実業に転勤されました。丸子実業の最初の年は、前監督からの引継ぎがあり、夏の新チームができてから私も呼ばれることになったのです。今年3年生になる選手が竹内先生の最初の指導を受けたことになります。

上田東と同様に、その選手たちも投げられない、打てない、うまく捕れないという素人の選手ばかり20数名でした。3塁から1塁まで投げられなかったり、投げる動きすらまともにできなかったりという選手がほとんどでした。またバットにボールが当たっても内野の頭すら超えない状態でした。

守備といえば形にもならない状況で、特に守備練習はとても見られたものではない状態でした。こんなとき、問題点は2つ考えられます。1つは力が無いのか、後1つは力の出し方やからだの使い方が解らないのかどちらかの問題です。

いずれのチームも同じ状況でスタートしたのですが、3~4ヶ月、半年、1年と私が行く度に上手くなり、力強くなり、パワフルになっていきました。現在丸子実業では、父兄の援助もあり、今年は2月、3月、6月、8月、10月とすでに5回出向いて指導しています。

それだけに選手の進歩は目覚しいものがあり、見学に訪れる父兄も我が子の成長の早さに驚いている状態です。その成長とは、からだが大きくたくましくなり、プレイも上手くなったということです。以前は1泊2日の指導でしたが、今年から2泊3日で指導していることもあると思います。今年の8月には、初めて3泊4日で指導しました。

監督をはじめ選手の努力もあり、今年は長野県レベルでは上位のレベルになり、甲子園に出場してもおかしくないチームに成長しました。2年前を知る人は、私を含め、まさに夢を見ているような子どもたちの変身ぶりです。

最初はウォームアップのジョグからトレーニングの指導、次に投げる、打つ、捕球するという基本動作の指導から始まりました。ポイントは如何に楽に動くかということです。ウエイトトレーニングはどこかの業者に依頼してやっていたのですが、重いものに挑戦するようなボディビルタイプのものをやっていたようです。それで腰や肩を痛めることが多くなり、筋力強化と野球のプレイがつながらないという状況にあったようです。

 

時間の効率化

高校生は、1年の4月に入学し、3年の7月に最後の県大会があることから、わずか2年と2~3ヶ月で終わってしまいます。その間に技術練習もやらなければならないし、どうしても技術練習が中心になるのは当然のことです。

そのために、技術練習が終わってから、トレーニングをやるようなパターンが普通になっています。そうすると練習が終わるのも20時、21時になり、家に帰ると22時、23時ということになってしまいます。ウエイトの種目も12~15種目3セットやるのであれば1時間で終わるはずはありません。時間の、練習・トレーニングの効率を考えなければいけません。

技術練習が終わる頃には、空腹と疲労感、そして集中力のない状態でウエイトトレーニングが始まります。筋力トレーニングは神経系のトレーニングであり、このような状況では強くてパワフルな筋肉をつけることは当然期待できませんし、疲労を増すだけです。

ウエイトトレーニングを一生懸命やったと思っていても、実際に筋肉やパワーがつかなかったり、からだも大きくならなかったりということになるのです。

またチームとして体力測定を会社に依頼しているところも多いようですが、その測定方法に問題があると考えます。当然体力測定のデータを見て昨年よりレベルアップしたかどうかを問題にするわけですが、筋力測定ではそのデータが当てにならないことが多いのです。

トレーニング効果は筋力を強化する方法と測定方法が同じ形式でなければ、正しく評価することができません。例えば、アイソメトリックスの形式で筋力測定するのであれば、トレーニングでもアイソメトリックスの形式を使った筋力トレーニングを中心にしなければいけないということです。

またパワーを測定する形式の筋力評価であれば、瞬間的な動作スピードを意識したトレーニングを心がけないとトレーニング効果を正しく評価できなくなります。このような矛盾を知らずして、トレーニングと測定・評価をしていることが実際に多くの学校で見られます。

そうするとトレーニングでからだが大きくなっても、その測定ではレベルアップが見られなかったり、変化もしていなかったりという結果になってしまいます。

問題は如何にボールを投げ、打つ、走る動作に生かされる筋力、パワーをつけるかということです。正に専門性の原則です。2年2~3ヶ月の間に、体力と技術を習得しなければならないのです。

単純なスタイルで練習後に、週に2~3回、12~15種目、10~15回3セットのスタイルでは疲労のほうが先に立ち、集中力の欠如から、特にパワー系の力はついてきません。いかに集中した状態で、技術を獲得する土台となるからだづくりがやれるか、これがコンディショニングなのです。

特に長野県の高校では学校から自宅まで遠い選手が多いこと、また交通の便も良くないことから、できる限り効率よく練習とトレーニングをしないと、運動、食事、睡眠の原則が守れなくなります。公立高校で下校時間の規制があるところでは特に問題です。

ポイントは、如何に効率よく練習・トレーニングをするかということです。集中力と意欲は、比例するはずです。その意欲を引き出すことが指導者の一番大事なところなのです。

このように、今までの野球界の中で正しいとされてきた考え方からの発想ではなく、トレーニング、コンディショニング、指導法の原理原則から、そして選手を取り巻く環境から、いつ何をすべきかを追求していけば自ずとベストな発想が生まれてくるはずです。

これは野球に限ったことではありません。是非、そのような観点から現在行っているトレーニング、コンディショニング、指導法を見直してみてはいかでしょうか?