2001年 11月 の投稿一覧

リラックスについて|ニュースレターNO.035

以前、テレビでリラックスするとパフォーマンスが改善すると言うものをやっていました。確か、プロゴルファーが普通にスイングした場合と、リラックス運動をした後のスイングでの飛距離を比較すると言うものでした。

結果的に、リラックス運動させた後の方が飛距離が出て、プロゴルファーが驚くと言うものでした。その時のリラックス運動が、からだを緩める「ゆる」と言うものであったと思います。それを紹介したのが高岡英夫氏でした。

高岡氏の著書については、何冊か鍛錬と言うものに関する著書を読んだことがありますが、少々難しすぎて、十分理解できなかったというのが正直なところです。そこで高岡氏の著書を調べてみたところ、身体意識に関する著書が何冊か見つかりました。

早速それを購入し、読んでみました。実際に我々が実践できそうな情報は、前半に少しありますが、後半は概論的な紹介ばかりでした。

結論としては、人間のからだを構成しているものについては、全て意識があり、それをコントロールすることができると言うことです。それがコントロールできる状態にある人は、素晴らしいパフォーマンスを発揮できると言うことです。

その代表に、剣豪宮本武蔵やイチローを挙げています。そういえば、昔、私の母校である大阪体育大学の副学長をされていた大島謙吉先生の歩き方を見て驚いたことがありました。まるで雲の上を歩かれているように見えたのです。

静かでスムーズで、全くリラックスしたスタイルでした。大島先生は、三段跳びでオリンピックに2回出場され、ロサンゼルスオリンピックでは銅メダルを獲得されています。

また、シドニーオリンピックの男子100m決勝のスタート前にモーリス・グリーンが舌を出してからだを左右にくねらせながら動いていたことを思い出します。

私も高岡氏の著書をヒントに、意識を持って関節を動かすことをやってみましたところ、首、肩、背中、腰などの緊張が取れ、非常にリラックスすることができるようになりました。

意識を持って関節を動かすこと、ゆすることは、言い換えるならモビリゼーションであり、確かに関節周囲の緊張は取れるのでしょう。力を抜くことは難しいもので、力が抜けることによって、身体はつながりを持った効率の良い動きができるようになります。

筋力トレーニングが全盛になってきた現在、筋肉を太くすると言うことと平行して、リラックスと言うことも学ばなければいけません。当然、ストレッチングや柔軟体操だけで解決できるものではありません。そんなヒントが高岡氏の著書に隠されていたように思います。

以下に、高岡氏の最新の著書(からだには希望がある:総合法令出版)をから抜粋したものを挙げておきます。これだけでもヒントはあると思います。

『身体に柔構造が進んでいる人というのは、身体のあらゆるパーツ、つまり全身の内臓、筋肉、骨の存在、構造、質量、物性、力を感じる一方、地球の中心をとらえて、それらの関係を、時々刻々、絶妙に感知し、バランスをとり続けながら存在しているのです。』

『身体をゆすることによって、自分の身体がよりよくゆれる、ゆれる気持ちになる。そして身体がゆれ、気持ちがゆれると、身体がゆるみ、気持ちもゆるむ。そうなると、よりゆすりやすくなる。ゆるんできたものはゆすりやすいのです。

そこでゆする、ゆれる、ゆるむということを意識して、ゆすり方や気持ちの持ち方を工夫していくと、ゆする、ゆれる、ゆるむということが、ぐるぐるサイクル状になって回っていく。お互いに次々に影響をし合い、らせん階段を上っていくようにどんどんいい状態になって、各パーツの連結が解放されていくことに気が付いたのです。』

『「ゆる」は、身体に適度なストレスを与え、脳を刺激することにより、ゆる後に心身をリラックスさせ、脳がうまく活動できる環境をもたらします。だから「ゆる」をすると、様々な仕事、運動の能率が上がる可能性があると推察できます。

それをやること自体に疲労はないにもかかわらず、運動効果が得られるところが「ゆる」の味噌です。また、体力が乏しい高齢者、怪我や疾病からのリハビリを必要とする人々、さらに精神的な抑鬱や、現在先進国を中心に増え続けている病気の1つである鬱病に苛まれる多くの人々にとって、「ゆる」は効果があると思われます

というのは、元気のない抑鬱の人が運動するにはそれなりの決断が要るからです。そういう人は運動をする気になれないのが普通ですから、「ゆる」のようなあまり気合いを入れなくても取り組め、効果が出る簡単な軽運動は大変魅力的です』といいます。・・運動生化学者の話』

『意識にはどういう種類のものがあるかを考えました。間違いなく意識は、人間の感覚器から得られるあらゆる意味での情報を元に成立しています。そこで感覚器ごとにみてみると、目で見て入ってくる様々な情報、視覚情報を元にして成立している意識がある。

耳から入ってくる情報、これには言葉も入っていますが、そのような聴覚情報で成立する意識がある。そして、それ以外のたとえば、触覚、嗅覚、味覚、平衡感覚、筋紡錘にある感覚器から感じる筋肉の感覚、内臓の感覚などの体性感覚からくる情報を元に成立している意識がある。

そこで私はその各々に「視覚意識」、「聴覚意識」、「体性感覚的意識」と名づけ、人間の意識をこの3つに分類しました。さらに体性感覚的意識を略した言葉として「身体意識」という言葉を考えました。』

『人間がおなかの中に宿って、一番最初に生まれる意識は、その三分類でいうと体性感覚的意識です。おなかの中で赤ちゃんは、お母さんが言葉をかける以前に、お母さんの情動、身体運動、栄養状態などを感じ取りながら存在し、体性感覚的意識を育てています。

ですから人間は、体性感覚的意識が一番優位な状態で生まれてくる。そこから段々親の働きかけやいろいろな刺激を受け、視聴覚意識も育っていくのです。

このように人間の意識を整理してみると、たとえば下丹田や「腰」といった身体の各部分に形成される意識とは、体性感覚的意識、つまり身体意識であることがわかりました。体性感覚的意識は身体中どこにでも存在し得るし、身体の外にも存在し得るのです。』

ストレッチングについて|ニュースレターNO.034

「Sportsmedicine 2001.No.28とNo.29」(ブックハウスHD)に跡見順子女史が、『ストレッチは、なぜよいか』というタイトルで、分子レベルの話をされています。この中で興味深いところがいくつもでてきました。

これまでストレッチを筋肉そのものに対してのみに目を向けていたのですが、分子の、細胞のレベルで見ていくと、ストレッチの効果が、筋のリラクゼーションをもたらせるという単純なことではなく、筋肉そのものをよい状態に維持する効果があることがわかりました。

またそれだけでなく、筋肉を伸ばすことによる機械的刺激が腱、腱が停止する骨にも良い影響が及ぼされることも理解することができました。

2回に渡る連載で、その中のポイントを少し抜粋してまとめてみました。少し難しい内容ですが、興味のあるかは、是非原文を見直していただけたらよいと思います。

ストレッチに関しては、私自身の専門的なところでもあったのですが、これまでスタティックストレッチングはリラクゼーションに用いることが最適だという考えをもっていましたが、視野を広げて捉える事をまたまた教えられた思いです。

また、筋肉を細胞レベルで捉えた話は、非常に興味深いものです。皆さんもそれぞれに感じとられるところがあると思います。すでに、承知の方には興味のないことかもしれませんが…。

 

ストレッチは、なぜよいか

『骨格筋のストレッチと細胞レベルのストレッチとつながるところがある。骨格筋はストレッチに耐える構造で、ストレッチがシグナルになる。ストレッチは個体レベルでも気持ちがいいし、筋や腱を伸ばすことで細胞レベルで遺伝子発現につながる。するとそのようにコード化されているのではないか、骨格筋をみているとそう考えられる。』

『細胞に機械的な刺激を与えると、それがシグナルになる。筋の収縮は張力の発揮だが、それと分子がつながったというのが筋肉研究の歴史では大きなポイント。それから、ATPが発見されて、エネルギーが加わったが、エネルギーと収縮するタンパク質分子と実際に発揮される張力が問題であって、そこに細胞という概念はなくてもよかった。』

『細胞という概念が筋肉の研究の最先端に出てきたのは、MyoD(マイオディー)の発見である。MyoDというのは、ある遺伝子が活性化されると筋肉ができるというもので、その種の遺伝子が発見されたのは筋肉が最初である。』

 

筋肉は「動く」(move)ではない

『筋肉は動くかというと動いてはいない。収縮はするけれど、「動く」(move)ではない。moveは「動く」だが、細胞自体は動いていなくても、ダイナミックに細胞の中で動きがある。”move”というか移動ではない。筋肉になる細胞(筋芽細)はあまり動かない。

他の細胞と比べて、筋芽細胞は筋線維(筋管細胞)と同様に動かない細胞の性質をすでに持っている。筋肉は動いているわけではなく、収縮しているだけで、収縮しているのと動くのとは違う。筋は収縮しているのであって、筋自体力が働いているわけではない。

筋肉も細胞からできているが、筋芽細胞が融合して筋線維になるので、筋と細胞とが直接つながらない理由がそこにもある。筋線維が線維(fiber)だと思っているが、細胞である。筋線維には数千の細胞核があり、それが融合して1つになっている。』

『筋細胞は特殊な細胞で、ストレッチで外部から伸展力を加えると、意志としては伸ばそうとしているが、伸ばされる筋や腱にとっては、受動的に力を加えられている。それとは別に、筋と腱、腱と骨という異質のものがつながっているので、連結部を強化することも考えられる。』

『筋にとっては、心筋細胞であろうが、骨格筋細胞であろうが、細胞としては横紋構造を持っている点で同じで、それが伸張されると肥大するという現象がある。あるいは肥大しなくても形が維持される。

心筋は伸ばされると肥大する。骨格筋は使わないと萎縮していくが、ストレッチをすると肥大はしなくとも、維持される。長さが維持された状態で収縮が起こらないと、筋は肥大もしないし、壊れるだけだろう。』

『短縮した状態で刺激を加えると、筋にマイナスに影響する。それが横紋筋の大事なポイント。張力曲線を見ると、ピークが決まっていて、ある一定の長さで最大の力が発揮できるというのが横紋筋の特徴。あまり長すぎたり、短すぎたりすると損傷する。

それはサルコメアの長さが決まっているから。サルコメアのA帯とI帯があって、そのアクチン部分の長さを1ミクロンと決めるタンパク質(ネブリン)があること自体がすごい。』

『アクチンはいろいろな長さに伸びることができるし、ミオシンも重合して束をつくるが、そのときに相互作用して、最も効率のよいところが、アクチンが1ミクロン、サルコメア全体として約2.2ミクロン。哺乳類では、そう決まっている。

例えば、エキセントリックコントラクションで筋が損傷しり、骨折でギプス固定するとき、固定の長さが問題になる。伸ばして固定すると発達するが、短く固定すると、短いほうに適応し、サルコメアの長さを短くする。帳尻が合わないと、多分力がうまく発揮できない。』

 

ストレッチは身体を維持する

『ストレッチすると筋は肥大しなくても、維持される。基本的な筋の張力発揮と、肥大するときの必要条件の1つである。重心を維持するというのも、結果的に筋の長さを保持する運動になっている。瞬間的に力を発揮したり、大きな物を持ち上げることとは違うが、自分の身体を維持するということでは、ストレッチは大きな意味を持っている。』

『筋が肥大するのは、細胞が大きくなっている。タンパク質の実質、アクチンとミオシンを中心とする筋原線維が増えれば、実質的な肥大になる。タンパク質が増えなければいけない。骨格筋の場合、実際に細胞の数が10~20%は増える可能性がある。』

『スポーツ心臓は、心筋細胞の肥大である。細胞と組織をつないで考えるときは、心筋だからといって全部が心筋細胞ではない。心筋細胞は半分くらいで、残りは血管内皮細胞、細胞が住む環境をつくるためコラーゲンなどを分泌している線維芽細胞、マクロファージなど。

半分は実際に収縮して力を発揮しない細胞という理解が必要である。ランニングなど運動をすると、線維芽細胞自体の性質も変わるということが報告されている。』

『細胞自体が肥大するのは悪いことではないが、それが身体のどこで何をしているかによって、良かったり、悪かったりする。スポーツでは筋肉や骨が肥大することは良いことだと捉えられるが、それはよい方の適応で、通常細胞はそんなに肥大するものではない。』

『細胞の大きさを決める原理は何か? 細胞には適切な大きさがあるとされ、細胞にとって必ずしも大きくなることがよいことではない。細胞も生命も、ある一定の大きさの中で効率がよいようにできている。そのサイズが非常に肥大したり、極端に変化することは細胞にとっては正常なことではない。

そこから骨格筋が肥大することは、どういうことかと考えたほうがよい。肥大するのは大変なことだし、肥大したものを維持するのも大変である。維持するには大変な刺激とエネルギー源を入れなくてはならない。』

『細胞は、元に戻ろうとする。至適なところがあって、それを維持しているのが、地球上に生きて適度に動いているということである。それが基本にあって、その辺の一定のレベルを保つような仕組みが進化の過程でつくられている。pHでも体温でも、その他でもそう。その中で肥大するということは、大変だと考えなくてはならない。』

『骨格筋の場合は、肥大すると発揮する力が大きくなるが、筋ばかり肥大させ、循環器系をそのままにしておくと、循環器系からみるとあまり「健康」ではない。ただ、体質もあって、比較的簡単に筋肥大が起こる人もいるし、その人には遺伝子の変異があるかもしれない。実際には、そういう肥大する遺伝子がいくつか見つかっている。』