2001年 12月 の投稿一覧

今年最後のニュースレター|ニュースレターNO.037

今回のニュースレターも、今年最後になってしまいました。月2回のペースで、今年24回目、通算37回目となります。これまでの出会いの中から、にいろんな方にもニュースレターを書いていただきました。それぞれに今思うこと、感じること、考えることを書いていただき、広い視野を持つことを訴えていただいたような気がします。

今年、出会ったことばがあります。「木を見て森を見ず」 これほど我々が陥りやすい観点を刺激したことばはありません。目の前のことだけに注視するのではなく、その周囲も、隠れた部分も含め、常に全体を見つめることの大切さは、指導者にとって必要不可欠なことだと思います。

このことは、指導や研究、そして講演や人の話を聞く、また講演する場合にも当てはまることだと思います。

今年最後のニュースレターは、今年であったかが、今年最後の私の講演を聴いていただき、それをどのように感じ取られたか、そのリポートを紹介したいと思います。

 

魚住先生の講演を聞いて

12月16日、早稲田大学で行われたNSCAジャパンカンファレンスの中で魚住先生の講演を聞く機会を得ました。テーマは「柔軟性の考察する~スタティックストレッチからPNFストレッチまで~」ということで、ストレッチングの方法論やその他以前にニュースレターでも紹介のあったことについて、お話をされました。

紹介していただいた色々な情報の中にも新鮮なものが多く、自分の思考に影響を与えることが多くありました。

その中で、ストレッチさせることにより骨への刺激にもなり、それが筋力の維持にもつながるといった文献の紹介がありました。これは、今まで考えもしなかったことでした。

筋の起始や停止部を考えると、確かにそうなのかもしれませんが、自分の中でストレッチングというのは筋へ作用するものという固定観念が出来上がってしまっていたので、この文献が紹介されたときには驚いてしまいました。

先生は、高齢者などに対して筋力の維持に有効であるとおっしゃっていましたが、スポーツ選手に対しても、場合によっては用いることができるのではないかと思います。

また、筋紡錘と腱紡錘が同時に作用した時には、腱紡錘の方が優位に働くということや、ストレッチの際の抵抗感の半分近くが筋膜によるといったことなど、恥ずかしながら初めて耳にした情報も多く、今後選手にストレッチをさせる時にも、うまく自分のものにできれば、より効果を高められるであろうと思われることが、たくさんありました。

細胞レベルのお話に関しては、正直なところ、理解にまだまだ時間がかかりそうですが、今後少しでも自分のものにしていけたらと思います。

しかし、一番印象に残っているのはそれらのことではなく、別のところにありました。色々なことを説明さる中で、先生が特に強調されていたのが、「何を目的とするのか?」ということであったと思います。

どの器官に対してアプローチするのか?それによりどのような効果を狙っているのか?ということでした。こういったお話から、トレーニングについての話題になり、アップで走る時の量などについて、何故その量なのか?それより多くても少なくてもいけないのか?ということについてお話をされました。

そして、そういったことを選手から問われた時に答えられますか?ということを受講者に投げかけられました

また、「ストレッチ」と「ストレッチング」の違いということについて話をされていましたが、この話をされたときに、「この2つを混同して使っていないか?」ということと、「2つの言葉の違いを、自分の中で確立して使い分けるべきである」ということをおっしゃいました。

自分の中では「伸ばす」のがストレッチ、「伸びている」のがストレッチングという、一応の認識は頭の中にありましたが、実際に使う時には混同していたような気もします。

今この文章を書いている時にも、どちらの言葉を使うべきかということを考えてしまいます。まだ自分の中で明確な分類がないということの現れかもしれません。

この2つのことに共通しているのは、自分が指導すること、また発言する言葉に根拠を持たなければならないことであると、自分では捉えています。誰かが行ったことを真似て行うのではなく、その根拠などをしっかり持って指導にあたる、この当たり前のことをどれだけ当たり前にできるか?

このことの重要性は、以前魚住先生にお会いした時にも、強調されていたことでした。

現在、トレーニング方法などがたくさん世の中に出ていますが、それらを取り入れるときにも、マニュアル的に行うのではなく、その背景をしっかりと把握・検討し、自分のクライアントに対して必要であるかどうかを見極めなければなりません。

指導する立場にある以上、一般の方が流行に乗るのと同じようにしてはならず、しっかりと自分が責任を持てる形で、選手に指導しなければならないということを改めて感じました。また、選手は新しい情報や雑誌などでとりあげられたものに対して、ものすごく敏感です。

そして、そのようなことを導入することを望み、こちらがやらなければ、そういったことも提案してきます。選手から質問されたときにもしっかりと答えられるよう、自分が実施する、しないに関わらず、情報を収集あるいは実際に体験し、しっかりとした根拠を持つことが必要であると考えます。

今回は、柔軟性ということがテーマでしたが、それにとどまることなく、自分が期待したよりも盛りたくさんの内容でした。ただ、時間的に限られていたので、もっと深くお聞きしたいという気持ちが残りました。1時間という中では、全てを深く考えるまでの余裕が自分にはありませんでした。

また、今回お話に出てこなかった他の柔軟性を左右する要因についても、お聞きできる時間が得られれば良かったかなと思いました。

自分自身、いつも受け身になってしまいがちなので、もっと自分自身の知識や経験を積んで、あのような場で聞くだけでなく、与えられた情報に対して自分の考えと対比させたり、その上で疑問が持てるようにならなければ、と質問をされている方を見て思いました。

専門学校アスレティックトレーナー学科学生

再びストレッチングについて|ニュースレターNO.036

NSCAジャパンのストレングス&コンディショニングカンファレンスで、ストレッチングの講演の依頼を受けました。確か一昨年にも同じカンファレンスで「ストレッチングからモビリゼーションまで」と言う演題で講演したことがあったので、同じ話はと言うことで遠慮しましたが、もう一度基礎をと言うことで講演を引き受けることになりました。

しかし同じ話をするのはどうかと思い、ストレッチングに関する情報をいろいろと探してみましたところ、跡見女史の記事を見つけ、以前に紹介しました。その後、見つけたものが今回紹介するものです。大修館書店の『Q&A 運動と遺伝』という本があり、Q&Aの形でまとめられたものです。

その中に、東京大学の石井直方氏が『ストレッチはミオシン分子にどのような効果を及ぼすのか-強制伸張による張力増強のメカニズム』と言うことで書かれた文献がありました。

まずそれを箇条書きにまとめてみると、次のようなことです。

『静止状態の筋を伸張(ストレッチング)することは、筋の緊張を緩め、関節の柔軟性を増す目的でよく用いられている。』

『収縮中の筋をいったん伸張し(伸張性収縮)、切り返すようにして短縮させると、運動のパフォーマンスが増強されることが知られていて、実際の運動でも反動動作としてよく用いられている。』

『Edmanらは、等尺性収縮中のカエルの骨格筋単一筋線維にランプ状の微小な伸張(ストレッチ)を与え、伸張した長さに保持すると、伸張前の張力より大きな張力が維持されることを示した。これを、伸張による収縮増強効果(stretch potentiationまたはstretch activation)と呼ぶ。』

『一方、収縮中の筋に短縮を許すと(短縮性収縮)、まったく逆のことが起こり、短縮後には張力が元のレベルより低下する。これを短縮による収縮抑制効果(releasede activation)と呼ぶ。』

『伸張による増強効果がある時間持続することは、この間に筋に短縮をさせれば、短縮による仕事やパワーの発揮もまた増強されることを示唆する。筆者らは、カエルの骨格筋単一筋線維を用い、等尺性収縮中の筋をさまざまな速度で伸張した後、切り返して短縮させたときに筋線維が外界に対してなす力学的仕事を測定した。』『短縮時の仕事は、あらかじめ伸張を与えたときの方が、伸張を与えずに短縮のみをさせたときよりも大きくなった(伸張による増強)。』

『この仕事の増加の程度は、伸張の速度に依存したが、一定の伸張速度までは増大し、それ以降は減尐に転ずることがわかった。これによって、仕事の増強効果には至適伸張速度が存在することになる。』

『これに対し、伸張中に発揮される伸張性筋力は、伸張速度とともに単調に増大した。したがって、至適伸張速度があるのと同様に至適伸張性筋力があることになる。』

『同様の現象は、ヒトの肘屈曲、膝・股関節伸展動作(スクワット動作)でもみられ、最大の増強作用を示す至適伸張性張力は、肘屈曲では1.2~1.3Po、膝・股関節伸展では1.3~1.4Po(Poは等尺性最大筋力)であった。』

『これらの結果は、ジャンプ系の動作などで反動を利用する場合には、最大のパフォーマンスを生み出すために最適の減速タイミングや減速速度があることを示唆する。』

『伸張による収縮増強効果は単一筋線維でもみられるので、ミオシン分子とアクチン分子の相互作用のレベルで起こっていると考えられる。そのメカニズムについてはいまだに謎である。』

以上のような情報は、カエルの筋肉から引き出されたものですが、人間の筋にとっても十分参考になるものと思われます。

それで、いくつかポイントを拾って見ますと、まず筋を伸張した長さに保持すると、伸張前の張力より大きな張力が維持されると言うことから、直立姿勢で立っているだけで、何らかの下肢のトレーニング効果が期待できたり、正座はだめと言われるけれど、活用次第では大腿四頭筋の刺激となると考えることができます。

次に、仕事の増加の程度は、筋の伸張速度に依存するが、それは一定の伸張速度までであり、それより速くなると減尐に転ずるということで、仕事量の増強効果には至適伸張速度が存在するということです。

このことから、反動を使う場合、最初の予備動作の筋の伸張速度を調整することでトレーニング効果に大きな違いが出ることが考えられます。ゆっくり伸ばすのか、急激に伸ばすのか、加速的に伸ばすのか、いろんなスタイルが考えられますが、尐なくともゆっくりとか中間的な速さは考えられません。

ある程度瞬間的な状態になると思われますが、いろいろトライしてみる必要があるということです。ただ言えることは、予備動作に長い時間をかけないと言うことでしょう。

次に、伸張中に発揮される伸張性筋力は、伸張速度とともに単調に増大した。

したがって、至適伸張速度があるのと同様に至適伸張性筋力があると言うことですから、上記のことを考慮すれば、筋の伸張に使う動作スピードは、加速的なものか急激な動作によるものかということと、どの程度まで筋を伸張するのかと言うことがポイントになります。スクワットであればどの程度膝や股関節を屈曲すればよいのかと言うことです。

最後に、ジャンプ系の動作などで反動を利用する場合には、最大のパフォーマンスを生み出すために最適の減速タイミングや減速速度があるとあります。パワーを獲得する際の動作を示唆しているものです。

指導する立場として、反動をつける部分に注意が必要であると言えますし、どのような動作、どのような感覚にすればよいのかと言うことは、それこそこれらの情報をもとにわれわれ指導者が考え出さなければいけないことでしょう。

また速く、素早く、急激に、直ぐに、爆発的に、など、どのようなことばがけが適当かと言うことにもなります。

僅か2ページにも満たない文量の情報ですが、私にとってはまた指導のポイントに気づかされた情報でした。