2003年 8月 の投稿一覧

世界陸上パリ大会を観て|ニュースレターNO.077

第9回世界陸上パリ大会が始まりました。期待の室伏選手も直前の怪我のため、十分力を発揮できず残念な結果に終わりましたが、それでも何とか3位に入りました。その他の日本選手は低調な結果に終わりましたが、3000m障害で日本記録を出した岩水選手の活躍は見事なものでした。

世界大会でベストが出せたというところが大きいですね。ほとんどの選手が自己ベストから大きく遅れた記録で終わるのにすばらしいの一言ですし、8分18秒台も素晴らしい記録だと思います。

今回のパリ大会で目に付くのは、スタートの問題です。スムーズにスタートできないことと、フライングが多いことです。私が見ていて思うのは、スターターが下手であるということです。選手がよいスタートを切れるようにおでん立てしてあげる誠意が見られません。

よいスタートを切らせることがスターターの役割でもあるのに、ただ「ヨーイ」「ドン」になっている気がします。

それもスターターによって「ヨーイ」から「ドン」までの間隔が実にまちまちです。ほとんど間のないスタートから通常の間で「ドン」が鳴るなど、選手にとってやりにくい気がします。

そんな中で起こったのが、男子100mの2次予選でした。最初にジャマイカの選手がフライングをしました。そして2回目のスタートとなり、アメリカのジョン・ドラモンド選手とジャマイカのもう一人の選手であるアサファ・パウエル選手の2人がフライングで失格になりました。

今年から、2度目以降にフライングしたものが失格になるルール改正が行われました。その判定基準は、「用意」の姿勢からピストルが鳴る間にスタートの動きをはじめた場合を不正スタートの定義とされています。

そして、人間の能力ではピストルの音を聞いてから0.1秒以内に動くのは無理という考えから、判定装置では0.1秒未満に動きを感知すると不正となります。今年から、1レースにつき一人のみ認め、2人目以降は即失格になるようになりました。

今回の失格は、ピストルが鳴ってから動き出すまでの時間をドラモンド選手は0.052秒、パウエル選手は0.086秒とフライング判定装置が検知したということです。ドラモンド選手がこの判定に抗議したために、競技進行が大幅に遅れ、それを理由にドラモンド選手は失格処分にされ、残りの種目にも出れなくなりました。

多くの方がこのシーンを見られたと思います。実際に、ドラモンド選手とパウエル選手の足はブロックを押していました。しかし、本人には早く飛び出した自覚はなかったはずですし、ていた観衆もわからなかったと思います。それは、上体は動いていないからです。ここに問題があります。

フライングとは何かということです。正確に判定するために機械を導入したわけですが、その機械が判定するのはブロックを早く押したかどうかということです。早く飛び出したかどうかではありません。フライングの判定装置を導入するなら、スタートラインに赤外線を引いたり、足ではなく手が離れる判定装置を使用したほうが適切のように思います。

速く飛び出すことが有利になるということですから、手が離れることを基準にすれば上体や足の動きは関係なくなるのではないでしょうか。

今回の二人の選手は、上体は動いていないのです。つま先でブロックを押していたのです。ですから、早く飛び出したのではなく、早くブロックを押しただけなのですから、本来のフライングの定義には触れないはずなのですが、動いてはいけないという定義には触れたことになります。動くことがフライングで、早く飛び出すこととは余り関係ないような定義はおかしいですね。

それから、今回のスターティングブロックを見て気になるのは、ブロックが小さくなったことです。十分な高さがなく、足の2/3ぐらいの長さしかありません。

ほとんどの選手は、つま先でブロックを蹴るというか押す感じになってしまっています。今回のフライングもそのような状況から生まれた気もします。母趾でブロックを押していると自然に踵にも力が入るようになり、気を抜けばブロックを押したという反応が出たりすることは大いに考えられます。

わたしは、スタートの指導において、つま先ではなく、踵でブロックを押しなさいとアドバイスしています。実際にやってみればわかることですが、つま先でブロックを押したり蹴ったりしますと必ず足首を使うようになり、そこにモーメントが働き、前に行く動きが遅くなりますし、大きな力を伝えることもできません。

しかし、踵をブロックにつけて、踵で押し出しますとモーメントも働くことなく、しかも大きな力を発揮することができます。前に飛び出すには、前に出るのではなく、ブロックを後方に押すことで前に飛び出すということです。

つま先で蹴ったり押して飛び出す力・パワーは、踵で押し出す力・パワーより大きくないことはロングジャンプやハイジャンプの踏切を考えればわかることです。このような低いブロックを使っているせいかもしれませんが、今回の短距離のスタートで爆発的な飛び出しが見られないのは単にフライングのルール改正だけではないように思います。

下手な思いやりのないスターターと本当のフライング判定装置とは思えない機械、そしてスーティングブロックが記録の向上にブロックをかけているように感じました。この先、ブロックが小さくなってくれば、また同様の測定装置の反応がよくなれば、さらにスタートは落ち着かない状況を迎えるのではないでしょうか。

ボルドン選手が言ってましたが、「人間のスタートは機械が判定するのではなく、同じ人間の視覚によって判定されるべきである」と。機械化された中で機械に見張られ、その中で人間がプレイし、機械が判定すること自体スポーツではなくなっているのではないでしょうか。

「より正確に」という気持ちはわかります。また、「人間による判定と機械による判定とどちらが正しいと思うか」と聞かれても、返事に困ると思いますが、「スポーツとは何か」、そんなところの議論がもっと必要のように思います。

あと目に付くことは、短距離にしても長距離にしても脚の回転が速いということです。日本人によく見られる蹴りという動作はほとんど見られません。特に素晴らしいのは、中・長距離の選手の走りです。実に美しいです。そして滑らかに進みます。脚の回転も速い。

日本の長距離選手は相変わらず足を引きずっています。この走りを直さない限り、世界レベルのレースにはついていけません。基本はスピードであり、走り方です。速く頭を切り替えて長い距離を走ったり、走りこめば速く走れるという考え方を変えない限り、いつまでたっても世界レベルに到達することはできません。

男子であれば400mを53~54秒で走れる走力、女子であれば57~58秒で走れる走力、それほどのスピードがなければ、結局ラスト1周で50mも引き離されてしまいます。

日本の中・長距離界のために、頭の柔らかい正当な考え方のできる指導者が出てきてほしいものです。素材のよい選手はいくらでもいるのですから、後は指導者の考え方しだいです。女子の長距離・マラソンももう世界にはついていけなくなりかけていることを早くわかってほしいものです。

世界陸上も半分終わったところです。後半戦にどんな選手が現れるか実に楽しみです。日本選手の活躍にも期待したいところですが・・・。

クリニックを通して|ニュースレターNO.076

8月に札幌、旭川、函館で、T&Fクリニックをしてきました。実に2週間に及ぶ旅でしたが、多くの選手や指導者と接し、とても楽しい時間を過ごすことができました。そこでは教えるだけでなく、指導する中で新たなポイントの発見もありました。

午前はスプリント、昼は長距離、午後はハードルの指導、夜は指導者との懇談と1日があっという間に過ぎ去ってしまいました。途中、函館で北海道選手権があり、のんびり観戦させてもらいました。これまで指導した多くの選手も参加しており、私を見つけては結果の報告やアドバイスをもらいにきてくれました。

毎日、指導と指導者との懇談で過ごしたことから、こんな生活の仕方もあるのかなと思う反面、素質のある選手が適切な指導を受けられずに伸び悩みつづけていることに悲しい思いもありました。そんな中でUHPCを発足させたわけですが、メンバーの一人である朝比奈選手は、とてもハードな仕事をこなしながら練習を続けています。

ただ、練習を続けているといっても1週間に1回できるかどうかの状態でした。それも何時間もできません。1週間に、また2週間に2~3時間という程度で、普通ならとても練習しているとはいえない状況です。彼の走りたいという強い意志・意欲がそのようなわずかな時間の練習の継続となっているようです。

シーズンが始まって4ヶ月以上たちますが、今回の北海道選手権が2度目のレースだといえば、彼の練習環境がどれほどのものか想像がつくはずです。今回の大会には100mと200mにエントリーしていましたが、当然2種目をフルに走ることはできません。

1日目の100mは予選だけを走り、2日目の200mに集中させました。日ごろのトレーニングはほとんどできないので、家に帰ってのホームエクササイズをやる程度で、筋力の維持を図っているところですので、午前中に走るなんてことは試合でしかないわけです。1日目はまさにリハーサルということになりました。

その200mは予選を軽く流し、準決勝も楽に走って、21”94でした。それも出だしだけの加速で走りきったので、決勝では自己記録の更新を予想できるほどの走りでした。

決勝には、私が指導していた3名の選手が残りましたが、いずれの選手も1日に3本も走る練習ができない環境にいる選手たちでした。結果は、3名とも疲れが出たレースでしたが、現状からはとても満足できる結果であったと思います。

朝比奈君は、やはりレースを重ねるに従って体調が悪くなりましたが、そのような体調でもうまく力を出し切れるようになりました。

彼の体調やコンディションがよければ、また普通に練習ができればどれほど走れるようになるのか期待をしてしまうのですが、現状を見つめれば仕方がありません。

彼もそうですが、UHPCの選手には、そうした環境の中で、如何に練習時間を見つけるか、たとえ30分でもよいのです。そんなわずかな時間であっても、地道に積み重ねていくことによって必ず大きな成果が現れるはずです。

練習時間がないと嘆いてあきらめている多くの選手に朝比奈君や井内君の練習環境を考えればどれほど恵まれているかわかるはずです。1日30分、問題のない時間なのですが、毎日続けることは難しいものです。1週間に2~3時間、この程度なら時間は確保できるはずです。すべての環境が整っていることにこしたことはありません。しかし、そのことが逆に練習の工夫や効率のよいトレーニングができなくなり、何か違ったことのために練習やトレーニングに打ち込んでしまっている場合が多いようにも思います。

「自分の努力にうそはない」 これほど適切に選手の結果を表した言葉はありません。いろんなことに悩んでいる選手諸君に現状を打破するキーポイントとして「自分の努力にうそはない」という言葉を伝えたいと思います。

選手に限らず指導者に対しても言える言葉です。その努力の仕方に間違いがあれば、当然結果も臨んだものと異なることは当然です。その結果も正しいものです。

現状の環境で何ができるのか、また何をしなければならないのか、どの程度時間が確保できるのか、1週間にどれほどの時間が確保できるのか、そのことを整理していけば誰にでも適当なプログラムが作れるはずです。

その際に十分な時間があればと考えないことです。とにかく1つずつ少しずつ積み重ねていくしかありません。薄い皮でも、一定の厚さになるために重ね合わせていけば、厚い皮を重ねるよりも強度は増すはずです。

現在いろいろなトレーニングの考え方が出てきているようです。特に走り方についてはそのことがいえます。いろんな走り方があり、その中で現在最高に速い選手の走り方がベストと考えられるようですが、そのような考え方は納得できるものではありません。

その前に最高に速かった選手と明らかに走法が異なっていることの説明がどのようにできるのでしょうか。その選手にあった走法があるはずですが、基本はリラックスしていることにあると思います。そのことによって、フォームに違いが見られるのではないでしょうか。