早い早いといいながら、今年最後のニュースレターになりました。昨年の四月に平成スポーツトレーナー専門学校の校長に就任したのに、もう二年目の冬を迎えてしまいました。慌ただしいと言えば慌ただしかったのですが、多くの方が平成スポーツトレーナー専門学校を訪ねてくださったり、新たな出会いにも恵まれた年だと思います。

平成スポーツトレーナー専門学校もできてまだ三年目を進行中ですが、本物のスポーツトレーナーを養成するという教育環境をほぼ整えることができました。うれしい限りです。教員共々努力を重ねながら日本一の専門学校にしたいと思います。皆さんにもぜひ一度見にきていただきたいと思います。

お越しいただいた方には、十分お話もさせていただきますし、ご希望であれば授業に参加していただいたりもしております。体験していただければ、平成スポーツトレーナー専門学校の何が違うのかわかっていただけます。夢を持った学生のための学校です。来年からはますます楽しみです。

さて、今年を振り返ってみますと、武術・武道、野口体操、筋膜リリースを追及した年でした。その関係の著書やDVD・ビデオをどれだけ見たことでしょうか。とても興味深いものばかりでした。それらを見つづけて自分に何が変わったのかといえば、今まで以上にリラックスすること、頑張らないこと、楽にやることの大切さです。自然体が一番ということになるのでしょう。

よく「自然体」ということばをつかうのですが、広辞苑を引いてみると「自然に素直に立った体の構え。特に柔道でいう。」と記されています。この「素直に立つ」ということが、「素直に動く」ということになると思います。その立ち姿を想像するなら、からだのどこにも緊張が見られないが、どっしりしている様のように思います。

そのどっしり差はどこからくるかというと、重力を十分受けて大地に足がねり込んだ状態のように思います。それだけ安定しているのですが、動く時には知らぬ間に、相手の目の前から消え去るように動けることです。正しく、忍者のような身のこなしなのでしょう。

このようなからだは、野口三千三氏が言っておられるように、「人間のからだは体液で包まれた液体である」ということです。その意味がよくわかるようになりました。武術や武道の達人に見られる力の発揮、パワーの発揮、すばやい身のこなしは正しくその現われのように思います。

人間のからだは、骨と筋肉で考え、筋肉が活動の源のすべてであるという考え方を真っ向に否定するものです。この点が非常に面白くなってきました。これまでストレングス・筋力強化を指導してきた私ですが、あるときから筋力アップ・筋肥大ということに疑問をもつようになりました。

それからというものは、筋力アップ・筋肥大の前に効率のよい動作を覚えさせることのほうがもっと重要ではないかということに考えが移行していきました。

そして、今年ロシアにマトヴェーエフ氏を訪ねた際、ロシアには「パワー」という概念がなく、「スピード筋力」という概念があること、また「速度」と「スピード」の概念の違いについてもご教授いただいたことから、なおさら純粋に筋肉だけを捉えて筋力アップ、筋肥大をすることにストップをかけるようになりました。

そのときに武道・武術の身のこなしによる力やパワーの発揮の仕方について、その一部を知り得たことからなおさら現状のコンディションでどれほどの力やパワーを発揮できるのか、その手段をもっと知らなければならないと思いました。

そのキーワードとなったのが、「意識」「無意識」「重力」ということばです。広辞苑を引くと、意識とは、1)認識し、思考する心の働き。2) 今していることが自分で分っている状態。3) 対象をそれとして気にかけること。感知すること。そして、無意識とは、1) 意識を失っていること。2) ある事をしながら、自分のしていることに気づかないこと、と解説されています。

これまでストレッチングでも筋力トレーニングでも、またある動作をすることにおいても、必要な部位やポイントを意識しなさいということが何ら疑いを持たずに指示されてきたのですが、筋肉をリラックスできない、大きな力を出したり、早い動きをすることができない要因、すなわちマイナス要因となっていたのがこの意識することだったのです。よく考えてみればなるほどと納得できることばかりです。

たとえば、ストレッチングをするときに、ほとんどの指導者は今伸ばしている筋肉を意識しなさいといいます。しかし、意識するということは、その筋肉を感じ取っているはずで、脳からの命令が出ているはずです。

その命令は、筋細胞を活性化させます。だから、コンセントレーション・カールのように上腕二頭筋を意識してアーム・カールをするのです。ウエイトトレーニングでは意識して筋の興奮性を高めるのに、ストレッチングでは意識して筋をリラックスさせようとする。まったく正反対のことであり、筋肉を意識することの理屈が合いません。意識して筋の緊張が取れるのでしょうか?本当に面白い話です。

そこで分かったことですが、脳は一面性の対応しかできず、一度に二つの命令を出して二面以上の対応はできないそうです。このような性質を逆に使えば、ある筋肉を伸ばしたければ、意識をその筋肉からはずせばよいということです。

他に意識を持っていけば、その筋肉は無意識の状態になり、筋肉が伸ばされても伸張反射を引き起こす可能性がなく、自然に筋肉を伸ばしていけるということです。このことは、実際にやればすぐにわかります。筋肉は抵抗なく、伸ばされていきます。

力を出すことについても同様の考え方が適用できます。たとえば、スクワットをするときに、一度しゃがんだ後、立ち上がるときに大腿四頭筋を意識して立ち上がれといわれるはずです。当然大腿四頭筋に大きなストレスを感じて筋肉も疲労を起こします。

そこで、立ち上がるときに主動筋として使われる大腿四頭筋から意識をはずして前方を見ることに意識を集中すると、楽に立ち上がることができます。

同時に息を止めないで「ハッ」と吐いて立ち上がるようにすればさらに軽く立ち上がることができます。このような所作は、身体の内なる力を使うことになるといわれています。いわゆる内面の力です。武道・武術では、このような内面の力を使うことで、スピードと力を生み出すようです。

これまでは、力を出すときに目的とする活動筋に意識を集中し、めい一杯力を入れさせる・緊張させるようにいわれてきました。力を出すために緊張させていたのです。このような状態では、大きな力を出せたとしても肝心なスピードが出ません。スピードの源は筋肉がリラックスしていることです。

スポーツパフォーマンスにはスピードは不可欠です。無意識の中で力を発揮する・内面の力を発揮するということです。このことも実際にやってみると、楽に大きな力が出せること、それもスピードをもって出せることがわかります。

頭の中で考えるより、実際に体験すればどれほど無駄な力を使ってトレーニングしていたのかよくわかります。また、人間がどれほどの力・パワーを内に秘めているのかということにも興味が沸きます。

筋力トレーニングをするときに見られるしかめっ面をし、筋肉を緊張させるだけ緊張させてウエイトを上げているところを想像すると、筋肉が太く大きくなっても、すなわち外見上筋肉質な身体に見えても、そこから生まれる動作スピード・パワーには限界を感じます。いかに大きな力・スピード・パワーを発揮するか、そのポイントは内面の力を発揮するということと、重力を使った反動・反射を活用することにありそうです。

人間の身体をどのように捉えればよいのか、それは骨と筋肉ということではなく、膜で包まれた液体と捉えることが自然のように思いますし、そこからパフォーマンス向上のヒントがたくさん引き出せるように思います。また、身体のバランスの崩れが原因しているスポーツ障害の回復の手助けにもなるように思います。もつと深く追求していきたいと思います。

最後に、よいお年をお迎えください。来年は平成スポーツトレーナー専門学校でお会いしたいと思います。