2008年 8月 の投稿一覧

オリンピック観戦記|ニュースレターNO.198

オリンピックも無事に閉幕しました。日本選手の結果は悲喜交々ですが、気になったところを取り上げ、オリンピックの観戦記を書いてみたいと思います。

オリンピックが開催されてすぐに残念な知らせがありました。女子マラソンで二連覇を期待された野口みずき選手が大腿部の肉離れで出場を断念するという知らせでした。マラソン選手がなぜ、ハムストリングスの肉離れをしたのでしょうか。常識的には、長距離のレーススピードでも筋や腱が損傷するほど大きな力はかかりません。いろんな報道がありますが、何れの意見も納得できません。まず、報道から見てみましょう。

『野口、五輪断念 30歳、疲労とも戦い-「最強の走り」生み出す筋肉北京五輪の女子マラソンの有力優勝候補、野口みずき(30)=シスメックス=が出場を断念した。ランナーの生命線といえる太ももを痛めた原因は、皮肉にも力強い大きなストライドにあったのではないかとの指摘がある。

連覇を狙う精神的重圧も含め、五輪チャンピオンの心身には、周囲からはうかがい知れない負担がかかっていたようだ。

野口が痛めた部位は、太もも裏側にある筋肉で「ハムストリング」と総称される。太ももの表側の筋肉が脚や体を支える役割を果たすのに対し、ハムストリングは地面をけったり、ストライド(歩幅)を伸ばすような動作の時に働き、陸上では特に短距離選手が重視して強化する。

長距離ランナーの野口は、走りのストライドが身長(150センチ)とほぼ同じという、異例に広い「ストライド走法」が特徴だ。ハムストリングは、この走法にもカギとなる部位で、この筋力が優れていたからこそ、200メートル余りの標高差を上って下る04年アテネ五輪の過酷なコースを力強く走り抜けることができた。

日本選手団の、ある競技のトレーナーは一般論として「ストライドの広い選手が痛めるケースが多い。そこに何らかの負担が急激にかかったのではないか。なかなかケガをする部分ではなく、繰り返し痛めていたら完治に半年くらいかかる」と説明する。

金メダルを狙うレベルの選手は、故障寸前のギリギリのところまで追い込んだ、いわば「紙一重」の練習をしてできる限りの強化をしなければ戦えない。そこを痛めれば、持ち味の走りに影響するのは避けられなかっただろう。

4年前のアテネ五輪、そして昨年の東京国際女子での快走が、野口の「現在の女子最強ランナー」ぶりを印象づけているのは確か。ただ、近年の野口の調整は、必ずしも順調だとは言えなかった。再度の日本記録更新を狙った06年秋のベルリンは、1カ月前に合宿先の部屋で転んで腰をいため、かばううちに左足首を痛めて回避。

077年春のロンドンも左アキレスけんの故障で断念した。今年3月には中国・昆明での合宿中に原因不明の発疹(ほっしん)の症状が出て帰国を早めている。

7月に30歳を迎えた野口は、体力の低下を否定するが、藤田信之監督は「年齢的なことは、疲労の回復などに影響しているかもしれない。体調を見ながら慎重にやらないと」とも話していた。この4年間、野口は自らの体力とも戦う毎日だったのかもしれない。』

正式な診断名は、MRI検査により左大腿二頭筋と半腱様筋の損傷ということでした。痛みがお尻の付け根付近にあるということなので、坐骨に近い起始部の損傷であった思われます。報道によると7/25に左臀部の下に痛みを訴えたとあります。また、それ以前に腰の張りを訴えていたような報道もあります。事前徴候があったということです。

彼女の走りは、左右対称ではありません。右腕を大きく外に開くように腕を振るので、左脚が右脚よりも前に出ます。よく見ると、左膝を前に出しながら走っています。

また、左脚のキックアップが右脚より大きくなっています。しかし、このように左右対称性が崩れていても、ハムストリングスの肉離れは起こりません。原因は、練習環境にあったと思います。

アップダウンをかなり走りこんでいたようです。その下りに問題があったように思います。左膝を前に出しながら走るということは、常に左脚で支えながら走っていることになります。そんなフォームで下りを走ると、左脚の付け根に大きなストレスを受けることになりますから、下りの中で一瞬大きなストレスが働いたのではないかと考えられます。

日頃から、左右の対称性をとるように身体調整していたり、ランニングフォームに注意していれば防げたことだと思います。おそらく、左側の背部、腰、臀部が張っていたのではないかと思います。からだのバランスには常に注意したいものです。

次に残念なニュースは、水泳のアテネ五輪の金メダリスト、柴田選手の不調です。最初の400m自由形予選では、自己記録から12秒77おそく、4日後の800m自由形予選では18秒も遅かったということです。こんなに遅くなることは常識では考えられません。まず報道から見てみましょう。

『柴田は体調不安を吐露-競泳五輪代表が高地合宿へ 2008/06/20 アテネ五輪競泳女子800メートル自由形金メダリストの柴田亜衣(チームアリーナ)らが19日、北京五輪に備えた高地合宿のために渡米した。成田空港で取材に応じた柴田は体調不良を認め「疲れが抜けず、いくら食べても体重が減ってしまう。水着の問題どころではない」と不安を口にした。

先のジャパン・オープンで平凡なタイムに終わった柴田は、普段は63キロ前後の体重が練習の度に2、3キロ減るという。田中孝夫コーチは「練習内容が落ちている。2回目の五輪で前回と受け止め方が違う」と重圧を感じていることを懸念した。』

『柴田「最高の泳ぎ」挑む 2008/08/12

競泳女子400メートル自由形で予選落ちした柴田亜衣(チームアリーナ、福岡県太宰府市出身)が14日に予選が始まる800メートルに出場する。この大会を最後に引退することを決意しており、アテネ五輪で金メダリストとなった種目に「最高の泳ぎ」を求めて挑む。 屈辱を必死にこらえた。10日の400メートル予選。

豊富なスタミナを生かし、最後まで力強くストロークを刻むいつもの泳ぎはなかった。自身の持つ日本記録より12秒77も劣る4分17秒96。まさかの惨敗にも「こんなタイムじゃ駄目。(800メートルは)がむしゃらにやります」と笑顔をつくった。 その表情は、恩師の教えに従っていた。五輪代表選考を兼ねた4月の日本選手権。

柴田は普段の息継ぎ法を忘れるなど自分の泳ぎを見失い、400メートル自由形で代表権を確定できなかった。心配する田中孝夫コーチ。その目を見て思い出した言葉が、アテネ五輪前に聞いた「弱い部分を見せすぎると、また何かあったときに付け込まれる。強い心を持て」だった。 「一度五輪に行ったことで、北京にも行けると甘えてしまっていた。

昨年の世界選手権800メートルで自己新を出して、力が付いたと勘違いしてしまっていた」。復調を信じて代表の誰よりも泳ぎ続けた柴田は、挑戦者の姿に戻った。大会直前まで考え抜いた水着問題も、所属するデサント社製ではなく英スピード社製の高速水着、レーザー・レーサーを選んだ。

「水泳を続ける上で欠かせない人」と慕う田中コーチに相談せず、自ら責任を背負った決断だった。 「世界一になったけど、日本記録を出していない」と続けてきた4年間。400メートル、1500メートルと日本新を出してきたが、本当に欲しいのは800メートルの記録だ。「五輪で記録を出すのは難しいけど、最高の泳ぎをしたい」と前を見据えた。』

『2008年8月12日(火)アテネ五輪の金メダリストの柴田がもがき苦しむ様子は、痛々しかった。4年前は世界の頂点に立った八百メートル自由形の予選で27位の惨敗。8分41秒63のタイムは、昨年8月に出した自己ベスト記録より18秒近くも遅く「情けない」と涙をこらえた。

4日前の四百メートル予選も、精彩を欠いて敗退。指導する田中孝夫コーチは、不振の原因を「4年遅れでプレッシャーが来た」と表現する。無欲で泳いだアテネ五輪と違い「金メダリスト」の重荷を背負った。責任感の強い性格が裏目に出た。迷いを吹っ切るため、レース期間中には異例となる1日約1万メートルの泳ぎ込みも行ったが、復調はならなかった。

一方で、度重なる腰痛にも悩まされてきた。柴田独特の「ツービート泳法」は、腕を一かきする間にキックを2回しか打たない。田中コーチは「それだけ1回を強く打つので、腰への負担は大きい」と言う。

5月にも痛みが出て検査したところ「椎間板の軟骨の水分が減って、老化現象のようになっていた」(田中コーチ)。才能に恵まれたわけではなく、その分を猛練習でカバーしてきたが、代償も大きかった。』

なぜこのような結果になったのでしょうか。状況を見てオーバートレーニングであったことが一目瞭然です。その前に、オーバーリーチングの状況もあったことがわかりますから、オーバートレーニングを防ぐことができたと思うのですが、残念ですね。日頃の体調管理ができていたのでしょう。

400mの予選落ちから800mのレースの間に1日10000mの泳ぎこみをしたともあるとも言っていましたが、とんでもないことです。オーバートレーニングになっていることがコーチも本人も自覚できていなかったということでしょう。

考えられませんね。コーチの談として、「ツービートで一回を強く打つので、腰への負担が大きくなる」とありましたが、これも考えられません。プルに頼った泳ぎがツービートの特徴ですから、それで腰にくるとは考えられません。ツービートで腰に負担がくるというのは、キックではなく、プルのテクニック上に問題があるのではないでしょうか。

左右のプルの違いがあるとか、からだの対称性が崩れているのではないかと想像されます。そのような状態で泳ぎ込めば結果は明らかです。日頃のからだの手入れやバランスの取れたフォームに注意していれば、このようなことが起こるはずはないと思われるのですが、残念です。また、腰の問題は、前のニュースレターで紹介したいろいろ悩みもあったということですから、脳の問題かもしれませんね。』

陸上競技が始まり、トラックの最初の決勝は注目された男子100mで、昨年の世界陸上の100mと200mの2種目を制した米国のタイソン・ゲイは、怪我の影響で精彩を欠きましたが、余裕の走りで決勝に進出したジャマイカのウサイン・ボルトとアサファ・パウエルの現世界記録保持者と前世界記録保持者の対決が注目されました。

スタートから素晴らしい加速をしていったボルトが60mで完全にトップにたつと残り20mで力を抜くという楽勝で、しかも9”69というとてつもない世界記録を出しました。

100mを完全に走りきれば、9”60を切っていたと思われます。その速さは、最後の20mを流して100mを41歩で走ったことでわかります。9”72の世界記録のときも41歩でしたが、走りきれば、40歩かひょっとしてそれより尐ない歩数で走ったかもしれません。パウエルの9”74の世界記録のときは、42歩だったと思いますので、これではだれも勝てません。

ピッチとストライド、そのストライドの差がレースの結果の差であったように思います。

そのストライドの短さが気になるのが、日本選手たちです。56年ぶりと44年ぶりに出場し、注目された陸上女子短距離100mの福島選手と400mの丹野選手は、普通の出来で、オリンピックを体験しただけに終わりました。結果というよりも走り方そのものが世界レベルではなかったということでしょうか。何が違うのでしょうか。それはストライドです。

二人とも腕振りがきちっとできず、横に流れる初心者走りになっています。オリンピックに出てくる選手にはみられない恥ずかしい腕振りであったと思います。世界レベルの短距離選手のみならず、中・長距離選手にも見られない日本選手だけに見られる腕振りです。その影響がストライドの差となっています。

腕振りの差がスピードの差となって現れていることを理解してほしいものです。いくら速く脚が動いてもピッチには限界があります。そのピッチを維持しながら、ストライドをいかに伸ばしていくかということが日本人の長年の課題です。短距離も長距離の選手にも腕ふりをきちっと教えてほしいものです。左右対称、推進力につながる腕振りです。

世界陸上やオリンピックを見ていれば、どの選手も腕振りを大切にしていることがわかります。そのイメージと走りのリズム・イメージを高めてほしいものです。選手に対してより、指導者に対して要望したいですね。

女子マラソンでメダルが期待された土佐選手は、残念ながら途中棄権に終わりました。まず、報道を見てみましょう。

『マラソンの土佐、右足激痛で棄権=骨には異常なし

当地で17日に行われた北京五輪女子マラソンで、土佐礼子(三井住友海上)が右足の激痛により途中棄権した。救急車で市内の病院に搬送されてレントゲン検査を受け、痛みはあるものの「骨には異常なし」と診断された。 土佐は右中足骨の表裏双方に痛みを訴え、患部を氷で冷やすなどして宿泊先のホテルに戻った。 三井住友海上の鈴木秀夫総監督によると、土佐は10キロ付近で右足に激痛を感じ、17キロ手前で集団から遅れ始めた。関係者が協議した結果、レース続行は不可能と判断し、25キロすぎに棄権させた。

土佐はレース前に右外反母趾(ぼし)の痛みがあることを公表し、痛み止めの薬を飲んで出場。鈴木総監督は「外反母趾に気を付けていたら、右足の違ったところまで影響した」と説明した。 これまで外反母趾は左だけだったが、米国と中国での合宿中に初めて右にも症状が出た。7月下旬の帰国後に磁気共鳴画像診断装置(MRI)検査を受け、骨に異常ないと診断され、五輪出場に踏み切った。鈴木総監督は「正しい判断だったと思っている」と語った。』

『Q.土佐さんの外反ぼしは大丈夫なんですかね? 「ひどいですから。(親指が)飛び出てるし、普通に歩くのもしんどいね」(渋井陽子 選手) 本来ならスタートラインにすら立てない状態。

それでも後輩たちが待つ21キロ地点、土佐選手は痛みに堪えて走ります。 必死にゴールを目指しますが、25キロ地点で無念のリタイア。レース後、先月に右足人さし指のつけ根を痛め、痛み止めを飲んで走ったことを明らかにしました。 Q.出場に踏み切ったことについて 「日ごろからの粘りが出たら、何とかカバーできるのではないかと・・・」(鈴木秀夫 総監督)』

外反母趾でそんなに悩んでいたとは、残念なことです。ほとんどの外反母趾は、先天的なものでなければよくなります。それは、外反母趾になるように足を使っているからです。

母指の向きをテープで矯正するだけで、修正されていきます。多くの方に実証済みですから、残念の一言です。しかし、実際に見てみないとわからないのですが、拇趾ではなく、第2・3あたりの中足骨の痛みのようにも捉えることができます。

そうすると、中足骨のアーチが落ち、第2・3あたりの中足骨頭で体重を受けていたのかもしれません。おそらく単純X線をとっただけだと思われますので、中足骨の疲労骨折の前兆かも知れません。

もし、アーチの低下があればこれもパッドを当てれば何ら問題はないはずですが。いずれにせよ、こんなことで走れなくなってしまうのは、悔やみきれません。彼女のからだの管理はどうなっていたのでしょうね。外反母趾にせよ、中足骨の低下にせよ、見ればどのように対処すればよいかわかるはずですが、これまでどうして対処できなかったのでしょうか。

そのあたりのことまでわかれば、走れなかったことにも納得するのですが、ほとんどそういうことはないはずです。日頃の走り方に、問題があることがほとんどですから、そのあたりの指導も必要であったのかもしれませんね。

あと一人、中村選手は2回目のマラソンでしたが、13位と大健闘でした。若くしてマラソンに挑戦した選手のその後はほとんどよくありません。マラソンに入るのが早すぎるのです。早く始めれば早くピークも終わるということですが、所属チームの先輩たちと同じ鉄は踏まないでほしいものです。

また、「欽ちゃん走り」というフォームは直さないといけません。あのような走り方をする長距離ランナーは日本人だけです。マラソンのスプリントの延長のイメージがほしいものです。

男子長距離の松宮選手と竹沢選手も5000mと10000mの両種目とも、まったく問題になりませんでした。どこまでつけるかという以前の問題で、女子選手と同様スピードの出る走りを身に付ける方が先決だと思います。

日本の選手はアップダウンのリズムがなく、水平移動か左右への移動のリズムになっています。これではストライドが出ないし、スピードも出ないのは当然です。いつになれば、スプリントイメージの長距離選手が現れるのでしょうか。

二人のコメントにスピードについていけなかった、やり直さなければいけないとあったのですが、何をどうやりなおすか理解できているかが問題です。みんな能力はあるのですから、期待したいものですが。

追試でオリンピック出場になった男子走り高跳びの醍醐選手は、予想通りコンディションのよさも見られず、最初の2m10cm、2m15cmをそれぞれ3回目に越えましたが、次の2m20cmは3回失敗と、オリンピックに参加する以前の問題でした。選考会でピークを持ってこられない選手がここでベストの結果を残す方が無理だと思われます。

同様に、追試で拾われた女子走り幅跳びの池田選手は、予想通り6m44cm、6m47cm、ファールで予選落ちでした。現状でのジャンプとしては悪くなかったと思いますが、醍醐選手と同様にここでハイパフォーマンスを発揮できる状態ではなかったと思います。ピークをどこに持ってくるのか、そのためには何をどのように進めなければいけないか、理解できていなかったのでしょう。

また、目標とする年に独り立ちしたかったというのは話しになりませんし、いかに計画的にやってこなかったかということがわかります。コーチと選手の関係が複雑であることがわかります。

期待された男子200mの末績選手は、予選20”93の6位で、落選してしまいました。彼の動きを見て、動きが硬かったという印象とともに、からだにフレッシュ感がなかったということです。その証に、ゴール後かなり疲れきっていました。

このような症状は、先の柴田選手のオーバートレーニングの前兆であるオーバーリーチングのようにも感じました。オリンピックの緊張によるものであれば、次のリレーでは快走するはずです。私には、ここ数年間のハードトレーニングの積み重ねによる疲労が蓄積しているように思えて仕方ありません。

世界陸上で3位になってから、私の目には、リフレッシュできている彼を見たことはないように思います。世界で戦うには、毎年のハードトレーニングではなく、計画的な一つ一つのトレーニングの積み重ねが必要に思うのですが、どうでしょうか。段階的にトレーニングの量が増えていくことはよいのですが、毎年ハードで量のかわりのないトレーニングでは進歩は望めません。

日本選手権の200mのチャンピオン高平選手は、ほぼ実力を出して二次予選まで進出しました。やはり膝から下の振出しが余分で、スムーズにピッチが上がりません。後半はその動作の影響か(?)、上体が反ってしまって減速していました。それが彼の今後の課題だと思いますが、気づいているでしょうか。

予選を突破した女子400mハードルの久保倉選手は、準決勝では大きく遅れてしまいましたが、ほぼ実力を出し切れたと思われます。やはりインターバルが16歩では勝負できません。15歩で走りとおせるストライドの獲得が課題だと思います。

ということは、スプリント能力を上げるということです。彼女も腕振りを直さなければいけません。福島大学出身の選手は同じように横振りする腕振りになっているようです。

女子5000mに出場した小林、福士、赤羽も予選落ちでした。小林は健闘しましたが上体が突っ立つ走りなのでもう一つスピードに乗れません。動きが長距離的に小さくなっていたのが気になりました。福士と赤羽は何を考えたのか、トップで引っ張っていました。

当然、後半はペースダウンし、おかけで他の選手のペースを上げてしまい、小林の予選通過の権利も完全になくしてしまうという最悪を招いてしまいました。やはりスピードを出せる走りではないので、そこを速く見直してほしいものです。トップランナーたちと一緒に走っているのですから、何が違うのか気が付くと思うのですが、またコーチも同じです。

長距離のランニングがスプリントリズムの延長になっていることに速く気づいてほしいものです。女子マラソンで優勝した選手の動きを見てもわかることですが、もっとスピードの出る走りについて勉強してほしいと思います。

陸上の半そでのユニフォームが気になりました。腕を振らなければならないのに、肩の関節を覆う半そでのユニフォームは、納得できません。何か理由があってのことだと思うのですが、ぜひ教えてほしいものです。

ウサイン・ボルト選手が200mでも素晴らしい走りをして19”30という世界新記録を出しました。向かい風0.9mでした。ピッチがある上に、ストライドが長いのでだれも近づくことができず離れていくばかりでした。スローを見て気づいたことですが、膝を前に出したとき、股関節が屈曲するだけというよりも前に出す脚側の臀部が膝と一緒に前方移動しているように見えました。

それが推進力となっているのでしょう。100m、200mともに完璧な走りが見られてなぜか嬉しかったですね。

棒高跳びの澤野選手は、今回は痙攣もなく終わったのですが、5m55cmで決勝に進めませんでした。彼の右足と左足のつき方がかなり変形していました。おそらく痙攣もそれが原因だったかもしれませんね。特にコンディションがよいようにも見えなかったので、この程度なのでしょうか。

1600mリレーは、女子は参加だけの形でしたが、やはり腕振りと走り方を直さなければあと一人2~3秒ずつの差はつまらないと思います。それから、バトンをもらうとき日本選手だけ外を向いて構えていました。以前に見たときも外を向いて構えていたので不思議に思っていたのですが、今回もそうでした。外を向いていてバトンをもらい、それから内に入っていくと遠回りになるのですが、このあたりの理由が知りたいですね。

男子の方は、金丸選手が急遽リタイアして為末選手が代役で走りましたが、全体的に問題になりませんでした。一走がもう尐し前でつなげたらよかったのですが、前半飛ばしすぎてラストの50mで失速してしまいました。男子の短距離も100mと200mが強くなってきたので、400mも何とかならないものかと思いました。

男女の1600mリレーが惨敗に終わった後、ついに男子400mリレーで3位になりました。陸上トラックでは、1928年アムステルダム大会の人見絹枝さんの800m銀メダル以来80年ぶりのメダルだそうです。予選で上位の国が何故か次から次へとバトンミスをして失格になり、予選のタイム順のとおり、見事なつなぎで銅メダルを獲得しました。

こんなことは神様の仕業としか考えられませんが、この運を引き込んだのは選手たちであることは間違いありません。日本短距離界にとっては歴史的な大会になりました。個人種目のメダルよりも、価値あるものになったと思います。

野球は、選手の力が発揮できずに韓国に負けてしまいました。また、3位決定戦でもアメリカに逆転負けしてしまいました。

初戦のキューバ戦から監督の緊張が伝わって、それが選手全員に蔓延していたように思います。勝利への思い込みはいいのですが、緊張だけでリラックスできていなければよいプレイはできません。

監督を始めコーチが暗くては、選手はリラックスできません。選手をリラックスさせる役目の監督とコーチが、緊張を持続し、それが選手に伝わるようではどうしようもなかったはずです。活気や勢いが感じられず、観ていてもベンチの重苦しさしか伝わってきませんでした。

その緊張が、攻めの姿勢が見られず、守りに入った野球に徹してしまって、何の策も講じなかったように見えたのは私だけでしょうか。残念です。楽しくない野球を見た気がします。

最終日、男子マラソンもスタートからついていけず勝負ありとなり、完走したでだけに終わりました。おまけに、大崎選手が左脚股関節の痛みで棄権しました。昨年の世界選手権前に走れなくなり、私のところにつれてこられたときと同じ症状のようです。

前回は、直ぐに走れるようになり、世界選手権も入賞することができましたが、今回は、私も手を貸すことはなかったので、結局棄権で終わってしまいました。また、悪い走りが出たのでしょう。チームドクターによれば、大腿直筋と縫工筋の炎症で、練習のし過ぎで見られるものであるということでしたので、前回同様直ぐに対処できたと思いますが、残念なことです。

最初の女子マラソン、最後の男子マラソン、ともに棄権者が出て、おまけに散々な結果とくれば何を反省すればよいのでしょうか。特に、陸上陣には、事前に怪我をしていてコンディションが十分でなかった選手があまりにも多くいたことは、何を物語っているのでしょうか。

オリンピックで最高のパフォーマンスを発揮する準備をどのようにするのか、プランニング、ピリオダイゼーションの問題だと思います。1年の計画ではなく、4年というオリンピックサイクルで、一つずつ課題をクリアーしていってほしいものです。それが普通なのですが。

メディカルストレッチング|ニュースレターNO.197

8月8日北京オリンピックが始まりました。開会式は、素晴らしかったですね。その一方で、共産国系の国家でしかできない人員の統制のすごさを感じました。正に一糸乱れぬ演技に圧倒されました。そして競技が開始され、数日経過しましたが、注目選手の結果はどうだったでしょうか。

女子柔道の谷選手、残念ながら準決勝で判定負けでした。柔道の試合を見ていて思ったことですが、組み手争いばかりで時間が経過し、まるでレスリングを見ている気がしたのは私だけではないと思います。そこでどちらかに指導が与えられるということで、勝者と敗者が決まってしまうのはつまらない競技と映ってしまっても仕方ないでしょう。いろんな考え方があるのでしょうが、やはり組み合って技を掛け合う柔道を見たいものです。

女子重量挙げ三宅選手も残念ながら6位に終わりました。試合前日の練習後に48.15kgあった体重が、当日の朝47.7kgになり、さらに試合直前には47.3kgにまでおちていたとのことでした。オーバーユースによるものか緊張によるものであったと想像されますが、急激な体重低下で集中力も落ち、力も入らなかったようです。

また、10日の新聞には、マラソンの野口選手が体調不良で検査を繰り返しているという報道がありました。しかし、実際にはスイスの合宿で左脚の疲労性の大腿二頭筋と半腱様筋の損傷がMRIで見つかったそうです。痛みは臀部の下のところにあったそうです。

彼女の走りは、右腕が外に開く腕振りで、そのために左脚が前にでやすくなり、左脚にストレスを受ける走りになっていたことも原因かもしれませんね。恐らくアップダウンの起伏地を走りこんでいたようですから、下りのストレスを脚の付け根で受けたいたのでは想像されます。

10日の夜には、男子柔道の内芝選手が2大会連続の金メダルを獲得し、今大会最初の金メダルを獲得しました。柔道は、いいかげんな判定より一本勝ちを基本にしたルールになればとつくづく思います。

まだオリンピックはスタートしたばかりですので、オリンピックの感想記は、次回にしたいと思います。

さて、今回はメディカルストレッチングについて紹介したいと思います。これまでのストレッチングの概念と尐し異なるのですが、関節を伸ばして、さらに筋肉を伸ばすというようストレッチングとは異なり、一関節筋と二関節筋に分けて、二関節筋を1つの関節を緩めてストレッチングするものです。非常に効果的なもので、ぜひ試してほしいと思います。

メディカルストレッチングは整形外科のドクターである丹羽滋郎氏が名付けられたものです。メディカルストレッチングについては、丹羽氏の著書:メディカルストレッチング-筋学からみた関節疾患の運動療法(金原出版2008)がありますが、ここではSportsmedicine 2008 No.101特集から紹介したいと思います。

『私達の身体を支え、動かす筋は前述のようにその目的に従い、極めて機能的に働いている。一関節筋は、一関節を挟んで骨に付着しており、関節が屈曲・伸展するのに十分な筋の長さと伸びを持ち、関節を安定させる。

二・多関節筋は、二・多関節を挟んで骨に付着する筋で、関節のすべての運動を同時に動かすが、完全に関節が伸展できる長さと伸びを持たない。しかし一つの関節を伸展(屈曲)すると、同時に隣接の関節も伸展(屈曲)し、相互に因果関係を持ち、複雑な動きを素早く、また大きな力を発揮する作用を持っている。

中高齢者は若年者に較べて、関節の可動域が狭くなっているが、これは関節の拘縮と筋の伸展性の低下(特に二・多関節筋)によると考えられる。関節可動域の低下はこの二・多関節筋の伸展性の低下によることが大である。

一般の疾病においても、この状態が考えられ、筋が何らかの原因でその伸展性が低下している時、当然のことであるが筋の起始・停止部である関節周辺に強いストレスが加わり、これが痛み、運動障害として症状となって現れることが多い。このため二・多関節筋を十分に弛緩させることが必要と考える。

運動器疾患の場合、すなわち何らかの原因で筋拘縮をきたしている時一般的なストレッチングによっては、ストレッチングそのものが痛みのために不可能であり、その期待する効果が得られないと考える。実際臨床の場において静的ストレッチングは難しく、PNFストレッチが有効であることがしばしば見られる。これは二・多関節筋について考えると理解しやすい。

筆者らは、臨床的経験からこの二・多関節筋を十分に伸展させるためのストレッチングに際して、筋の起始・停止のいずれかを緩めた形で目的の筋にストレッチングを行うことによって、極めて容易に筋の弛緩が得られ、関節可動域の拡大することを認めている。これをメディカルストレッチングと名付けている。

この現象は二・多関節筋が関連している身体の各関節、肩甲関節、肘関節、手関節、指関節、腰部、股関節、膝関節、足関節、足底部などに観察される。』

『変形性膝関節症に対して膝の可動域(屈曲・伸展)を調査すると、ほとんどの症例は伸展制限(屈曲拘縮)を認める。これに対してストレッチングが行われている。その手技(検査)として、被験者に床上長座位をとらせ足関節を十分に背屈させて、腓腹筋、ハムストリングを伸展し、膝伸展の程度を調査するが、通常5~10度の膝関節の拘縮を認める。

またこの時に、この膝伸展制限に対してBob Andersonの立位でのストレッチング、また床上膝伸展位で下肢を股関節屈曲し、ハムストリングのストレッチングを試みるが、十分な効果が得られないことに気付く。一般にこれは筋拘縮ではなく、膝関節拘縮によるものと理解されている。

このような膝拘縮例(外来診療における膝関節拘縮例、膝教室での膝症例など)に従来の方法(膝伸展位で足関節を背屈する方法)と新しい方法(膝最大屈曲位で足関節を背屈する方法)を試みて比較すると、後者による方法が膝関節拘縮(正確には伸展制限)の矯正に優れていることが明らかであることを経験している。

実際の姿勢・肢位について述べる。床上被験者を長座位とし、膝関節はできるだけ屈曲位をとり、さらに足関節背屈を被験者の手で強制するように指示する。膝関節が十分屈曲できない場合(肣満で体前屈が十分できない場合)は、前足部に適当な長さの布タオルをかけ、足関節を背屈するように引く。このような肢位を20~30秒間、2~3回行うことにより20゜程度の伸展制限は軽快する。

このメカニズムについて考察すると膝関節拘縮(正確には伸展制限)は大腿の後面にあるハムストリング、下腿後面にある腓腹筋の拘縮が主体である。ハムストリング、腓腹筋はともに二関節筋であることに注目したい。この矯正肢位においては、両者とも筋は弛緩した状態でストレッチングされることになる。

すなわち、ハムストリングの起始は坐骨結節に、停止は下腿骨中枢部に、腓腹筋の起始は大腿骨下端内、外顆後部に、停止は踵骨にある。ハムストリングは主として停止側が弛緩した状態で、腓腹筋は主として起始側が弛緩した状態で、それぞれの筋にストレッチが加わるが、その手技では従来行われてきた方法に比較して、弛緩した筋に対してのストレッチングの効果はあまり期待できないと理解されている。しかし、筆者らの経験からこの拘縮筋は十分に弛緩することを明らかに観察している。

膝関節に伸展制限がある時は、二関節筋である腓腹筋とハムストリングは十分な長さと伸展性を持たないため、また加齢により筋の伸びが低下しているため、長座位で股関節屈曲位ではハムストリングの伸びに限界があり、また腓腹筋も足関節背屈による伸びも同様に限界がある。膝関節を最大屈曲した状態では、足関節は十分背屈ができ、一関節筋であるヒラメ筋も含めて腓腹筋およびハムストリングは十分弛緩が得られているので、この筋の拘縮の矯正にストレッチングが効果的に働くと推察される。』

『ストレッチングされる骨格筋は形態学的には、筋起始、筋体成分、筋腱移行部、腱、腱の停止部と肉眼的には区別されるが、組織学的には、筋全体は筋上膜と呼ばれる結合組織鞘により包まれ、その中に多くの筋線維束と呼ばれる筋線維の束よりなる。筋線維束は筋周膜と呼ばれる結合組織で覆われている。

筋を構成する最小単位である筋線維の表面は、細胞膜である筋線維鞘によって包まれ、この筋線維鞘は外層が基底膜(筋内膜)、内層が形質膜よりなっている。この形質膜は細胞内へ陥入し、横行小管系(筋線維の内部環境の維持)を形成している。

また筋線維の端は腱に結合する部位では、筋線維の先端は多くの指状の突起に分かれて、腱の膠原線維と指を組み合わせるように絡み合っている。

筋の起始、停止には腱組織があり、腱は筋へは筋腱接合部を介し、骨へは骨腱接合部を介して接続している。腱は、外部腱(筋の外部の部分)と内部腱(筋の内部の部分)とに便宜上区分され、外部腱は筋腱接合部から骨腱接合部までに達しており、また内部腱はシート状構造(腱膜:aponeurosis)の構造となり、筋線維が停止している。

ストレッチングが行われた場合、どの部分がどのように引き伸ばされるかは、明らかでないが、福永は超音波を用いて、筋腱の動きを大腿四頭筋・外側広筋について安静時と10%筋に負荷をかけた時の変化を観察しており、膝関節の屈曲に伴う筋周膜と腱膜の傾き、長さの変化が異なることを明らかにしている。』

『ストレッチングを行った際に、その効果がどのくらい持続するかについては、何によってその効果を判断するか、大変難しいのであるが、筆者らは、足底筋群について、ストッレッチング(30秒間×2回)前・後の足のアーチの形状について観察を行っている。通常の生活活動の状態(歩行も許可する)においてその形状は約1時間維持されることを確認している。

このことは拘縮の強い筋、長期間拘縮が続いているような症例においては、継続的に、また断続的にストレッチングを行うことが必要と考える。臨床的な筋力・筋張力の増加、維持効果について、筆者らの研究によれば、従来行われているストレッチングに比較して、ストレッチング直後の筋力の低下はほとんどなく、2~3時間の持続効果も認めている。』

『二関節筋のストレッチングを行った場合、筋は関節が完全に伸展できるように、また過伸展できるような長さを持っていないため、過度な伸展が加わった時は、当然のことながらこれに反応して筋収縮が起こり、かえって筋の弛緩が得られないと考えられる。このため静的ストレッチのような手技が必要となる。

しかし臨床の場においては、一般に何らかの原因によって筋拘縮があり、これに対してストレッチングを行うと、筋への伸展刺激は痛みを生じ、十分な筋弛緩が得られない。筆者らは経験的に、二関節筋の起始・停止のいずれかをあらかじめ緩めた肢位、すなわちその関節を屈曲位に保持しながら、二関節の他の関節を伸展していくことにより、その筋のストレッチングが痛みなくできる現象を認めた(前述)。

このことは筋線維のみのストレッチングだけでなく、腱組織、筋腱移行部への影響も考えられるが、筆者らが行っているメディカルストレッチングにおいては、筋の緊張感が通常のストレッチングに較べて低いことから、安静時に膝関節を屈曲するような形で、筋腱移行部に強い刺激を与えることなくストレッチングが行われているものと推察される。

上腕骨外側上顆炎において肘関節を十分屈曲位として、手関節を掌屈するとほとんど痛みなく前腕の伸筋群のストレッチングが可能であり、ストレッチング後筋が弛緩していることを明らかに触れることができ、上腕骨外上顆の痛みが軽快することを経験している。このことは筋の起始部において、筋は外筋上膜に包まれ骨に付着しており、この部位では骨格筋の収縮制御する神経系の積極的な関与は尐ないと考える。』