この1週間は、世界陸上を見ることですごしたような感じです。何と言ってもボルトの100mと200mの世界記録ですね。100mが9秒58、200mが19秒18、200mの記録は100mのスピードでそのまま走ったことになります。

ボルトの速さは、スピード=ピッチxストライドのとおりに、ピッチが1秒間に4.5歩、ストライドは最大2m77cmであったと新聞に書いてありました。確か、北京オリンピックのときはピッチが4.4歩、ストライドは最高2m70cmほどだったと思います。

そして、100mを41歩で駆け抜けました。北京のとき、終板流したときも41歩でした。これでは誰も勝てません。身長が1m90cmを越え、脚が長くてストライドがあり、おまけにピッチも最高とくれば敵なしです。すばらしい動きを見せてくれました。

日本選手で印象に残ったのは、長距離陣の腑甲斐無さというか恥ずかしい思いがしたことです。オリンピックは参加することに意義があるといわれますが、世界選手権は、参加標準記録もあり、世界ナンバーワンを決める大会です。

その大会に体調不良で参加するのはどうかと思います。女子10000m、男子10000mと5000mは、最下位でした。あまりにも恥ずかしいレースを見てしまったのですが、選手たちはなんと報告するのでしょうか。

これに反して健闘した選手は、男子では最終日の槍投げで3位に入った村上選手、男子マラソン6位入賞の佐藤選手、男子400mリレー4位、女子マラソンで2位に入った尾崎選手、7位入賞の加納選手、女子10000m7位の中村選手、女子競歩の渕瀬選手ぐらいです。

この選手たちは何れも自分の力を出しきれた選手たちです。この入賞者たち以外に力を出し切ったと思われるのは男子十種競技の池田選手、400mHの吉田選手、女子マラソン14位の藤永選手だけです。日本陸連はこの結果について、メダル2個、入賞5個はほぼ予定の結果であったと報告していたが、問題は自己記録に程遠く、力を出せなかった選手たちについてにあります。

何が問題なのか、大きな大会が終わるたびに繰り返し言われることですが、そこを真剣に考える必要があります。

以下に健闘しなかった選手たちの結果と自己記録を書いて見ました。

男子:400m金丸46”83(45”16) 廣瀬46”80(45”84) 5000m上野14’30”76(13’21”49) 10000m29’24”12(27’58”03)
3000mSC8’39”03(8’18”93) 110mH田野中13“84(13“55) 400mH成迫49”60(47”93) HJ醍醐2m20(2m33)
LJ荒川7m53(8m09) PV鈴木5m25(5m55)
女子:400m丹野53”30(51”75) 110mH寺田13”41(13”05) 400mH久保倉56”91(55”46) 青木1’03”56転倒(55”94)
3000mSC早狩9’39”28(9’33”93) 10000m佐伯33’41”17(32’01”80) LJ桝見6m23(6m56) PV近藤4m10(4m35)
JT海老原54m81(60m84)

今年の世界大会は、観戦記を書きたくなるほどの気持ちもわかなかったので、この程度にとどめたいと思います。

さて、今回は以前にも紹介した事があります痛みの専門家の加茂淳医師が書かれた「トリガーポイントで腰痛は治る(風雲社2009)」から、痛みについてわかりやすく解説していただいているところを紹介したいと思います。痛みについて、概要を知るだけで、痛みにいかに対応すればよいか、いろんな考えが浮かんでくると思います。

『あらためて「痛み」とはなんだろうと考えてみると、一瞬、答えにつまります。痛みは見えないし、数字であらわすことも、レントゲンやMRIなどで映すこともできません。

まず、たしかなことは、「いたッ」と感じる感覚です。さらに、痛みには、するどい痛みとにぶい痛みがあって、それぞれ強弱があります。同じ痛みでも、そのときの心身の状態しだいで、感じる度合いがちがってくるらしい。

ざっと、こんなことが挙げられると思うのですが、実はこれで、痛みの輪郭はほぼとらえたことになります。いまからほぼ三〇年前、国際疼痛学会は、精神科医を座長とするグループによって、「痛みには二面性がある」と定義しました。痛いと感じる「感覚」としての一面と、「嬉しい」「悲しい」「苦しい」などのような「情動=心のうごき」という一面を持っているとしたのです。

痛みの定義を精神科医が中心となって行なったというところに意味があります。痛みは人間の心と密接なつながりがあるということの証しです。痛みの二面性が認識されるようになったのは比較的最近のことで、生理学的な痛みのメカニズムが明らかになってからのことです。』

『痛みとはなんでしょうか。そもそも、生理学でいう「痛みの正体」とはどういうものでしょうか。

ひと言でいうとそれは、患部の損傷を受けて脳に伝えられる「警告のための電気信号」です。脳は受けた電気信号を読み解いて、「いたッ」と感じるのです。この電気信号がなければ、人は指を切っても、頭にコブができても、あるいは胃を壊したとしても、それを痛みとして自覚することはありません。ですからこの電気信号は「痛み信号」と言い換えてもいいでしょう。

「痛み」は脳による電気信号の認知と反応なのですから、脳の働きを無視した痛みは考えられません。まずそのことを理解してください。』

『痛みは、大きく分けると二つの種類があります。

一つは、ピンで刺したときに感じる「いたッ」という痛み。これを「早い痛み」といいます。これは、その場かぎりの瞬間的な痛みですから、医師の関与するところではありません。

もう一つは、そうした瞬間的な痛みが去ったあとに、ジクジクといつまでもつづく痛みです。これを「遅い痛み」といい、問題になるのは、こちらの痛みです。

たとえていうと、早い痛みは「特急電車」、遅い痛みは「各駅停車」です。そして問題となる「各駅停車」のなかに、いわゆる「急性痛」と「慢性痛」という車両があります。「急性痛」と「慢性痛」のちがいは、ちょっと微妙です。』

『「早い痛み」は、治療の面でも問題にならないので、ここではいったん忘れてください。そのメカニズムを理解する必要もありません。

ここで取り上げるのは、「遅い痛み」のメカニズムです。日常的によくあることですが、間違って指をピンで刺したとしても、ちらっと痛みを感じるだけで、傷口をなめればそれでおしまいですね。

しかし、たとえば刺身包丁で深く切ってしまった場合などはそうはいきません。「早い痛み」が去ったあとに、ジクジクとした「遅い痛み」がやってきます。こうした「遅い痛み」の犯人は、「発痛物質」という痛みの元です。この痛み物質がなければ、「遅い痛み」は発生しないのです。

その発痛物質の代表的なものが「ブラジキニン」といわれる痛み物質です。そのブラジキニンがどのようして生まれ、どのように電気信号となるのか。

患部が連続して大きな刺激を受けると、脳はそれを受けて交感神経を緊張させます。それによって血管が縮み、その結果、当然血流が悪くなり、筋肉細胞が酸欠状態になります。この酸欠という危機状態に反応して、血液中の血漿からブラジキニンが出てくるのです。

このブラジキニンが、知覚神経(C線維)の先端についている「ポリモーダル侵害受容器」にぶつかると、そこで痛みの電気信号が発生し、プラスとマイナスの状態を次々にくり返しながら、脳に伝わっていくのです。ですから、「ポリモーダル侵害受容器」は、「痛みセンサー」と言い換えてもいいでしょう。

「痛みは電気信号」という場合の「電気」の意味は、およそ以上のようなことです。「痛み」は、電気現象なのです。

どうでしょうか。ちょっとむずかしいでしょうが、まあここは、読み飛ばしていただいてもけっこうです。ただし、重要なのは、次の一点です。

「痛みというのは通常、神経線維の先端についている痛みセンサーだけがキャッチします。痛みセンサーが電気信号を脳に伝えてはじめて、痛みが感知されるのです。神経の途中で痛みが発生したり、感知されることはありません」

ここが、痛みの生理学から学ぶもっとも重要なポイントです。』

『ざっと痛みのメカニズムを説明しました。要は、「痛みは、患部と脳の間の電気信号のやりとりである」ということを理解してもらえれば、それで充分です。

ところで、痛みというのは不思議なもので、なんの外的な刺激がなくても感じる痛みというものが存在します。精神的に異常な状態、たとえば猛烈な怒りとか、底知れない不安を抱えていたりすると、人体の器官も少なからず影響を受けます。交感神経や運動神経が緊張し、血管が収縮します。

それが習慣化すると、自分でも気づかないようなささいなことに対しても、条件反射的に交感神経の緊張と血管の収縮が起こるようになります。

こんなときには、具合の悪いことに副腎も同時に刺激され、これによっても血管収縮が引き起こされます。血管が収縮するとどうなるか?当然血のめぐりが悪くなりますから、血が少なくなる「局所乏血」を起こし、細胞組織の酸素が欠乏状態になります。酸素欠乏になるとどうなるのでしたか?そうですね、さきほど述べたように「発痛物質」が生成されるのでしたね。

この発痛物質が痛みセンサーを刺激して、痛み信号を脳へ送り、脳が痛みを感じる。これが、外的刺激がなくても感じる「痛み」です。この痛みには、なんらの外的な物理的刺激も関係していません。この痛みの犯人は、怒りや不安という得体の知れない感情にゆさぶられた「人の心」そのものです。これが一般的には「ストレス」と呼ばれているものです。』

『このときの脳の働きが、また問題です。脳は痛み信号を受けて、ただ単に痛みを感じるだけではありません。もう一つよけいな仕事をする場合があります。それは、脳自身が自分勝手に命令して血管の収縮を引き起こすような働きをすることがあるのです。

よけいな仕事をするのは脳だけではなく、脊髄もそうした働きをすることがあります。「脊髄反射」で生じた筋のスパズムが、血管収縮と同じように酸素欠乏を引き起こす、ということも分かっています。

「脊髄反射」とは、人間や動物が刺激を受けたときに、脳が認識する前に、脊髄が司令塔となって起こる反応のことです。熱いヤカンに手を触れたとき、瞬間的に手を離すなどはそうした例です。血管収縮と筋のスパズムの結果またまた局所乏血になり、さらなる発痛物質の生成につながります。

一つの痛みが、またあらたな痛みを引き起こす-悪循環です。こうした痛みの悪循環がくり返されると、脳にその痛みの情報が記憶され、わずかなことで反応し、痛みを感じるようになる。これが、いわゆる「慢性痛」のメカニズムです。』

『「痛みのループ」、すなわち「慢性痛のメカニズム」についてもう少し説明しましょう。
愛知医科大学医学部の「痛み学寄附講座」では、痛み信号を受けつづけることによって、脳が次のような状態になると説明しています。

「脳に向かって、長期間、持続して痛みの信号が送られると、一種の記憶として信号が神経回路に残り、痛みの原因がなくなったあとも、痛み信号を送りつづけることがある。これを『痛みの可塑性』という」

同講座では、これを「痛みは歪む」と表現していますが、痛みを放置しておくと、さらに蘿な「痛み(慢性痛)」をつくってしまう、としています。痛みが慢性化するのはこうしたメカニズムが働わけですが、そのワナにはまるのを手伝うのが、人の心理的、情動的な葛藤(情動体験)です。

「自分の身体的な異常に過度な不安や恐怖をいだくと、こんどはそれが情動刺激になってさらに身体変化を強化してしまうという悪循環をつくりあげ、刺激因子を持続化させてしまうことになる」(『心で治すからだの病気』片山義郎・大和書房)

こうなると、ささいな痛みでも激痛のように感じてしまったり(痛覚過敏)、本来痛みではないような信号でも痛みと感じてしまったり、ケガが治ったあとも、いつまでも痛みがとれなくなってしまう、という現象が起こります。これがパターンとして体のなかに埋め込まれるこれが慢性痛のメカニズムです。』

『ざっと痛みのメカニズムと慢性痛の仕組みについて話しました。腰痛もむろん、痛みのこうしたメカニズムにのっとって発生します。では、頸痛、腰痛、肩痛、膝痛や手足のしびれ(知覚麻痺のことではありません)といった、いわゆる筋骨格系の痛みはどうして起きるのでしょうか。筋骨格系の痛みの正体は何なのでしょうか。

結論から先にいうと、それは「生理的トラブル」が原因で起こるものです。ヘルニアや脊柱管狭窄や腰椎すべりなどの構造異常のためではありません。ここが、とても大事なところです。たいていの人が勘違いしているところです。

整形外科の医師もここが分かっていないから、「損傷モデル」から脱却できないのです。

では「生理的トラブル」とは、いったい何のこと?便秘や下痢、喉が渇く、動悸がする。あるいは高血圧、ときには不整脈、さらに轍雁凌やアトピー-こうした症状はみんな、生理的なトラブルです。

人はストレスにさらされると、身体になんらかの反応を引き起こします。その反応の仕方は人それぞれ、実に多様です。

それを分けると、

①筋骨格系に痛みをつくるタイプ 腰痛、肩こり、いわゆる坐骨神経痛、しびれ
②消化器系にでるタイプ 胃痛、便秘、下痢
③呼吸器系にでるタイプ 咳、鼻炎
④循環器系にでるタイプ 高血圧、不整脈、動悸
⑤皮膚にでるタイプ 蕁麻疹、掻痒(そうよう)、アトピー

となります。

これらは、すべて生理的トラブルです。つまり、人は同じストレスを受けても、肩こりになる人もいれば、胃が痛くなる人もいるし、あるいはまた不整脈になる人もいる、ということなのです。

筋骨格系の痛みも、こうした生理的トラブルと同じものなのです。腰痛も生理的トラブル、下痢や便秘も同じく、生理的トラブル!ですから、筋骨格系の痛みは、一種のストレス反応、あるいは条件反射なのです。けっして構造の異常が原因ではありません。

もう一度言います。ほとんどの筋骨格系の痛みは生理的トラブルが原因です。構造の異常のためではありません。

また逆に、生理的トラブルが構造異常で起きているという証拠はありません(ただし、変形性股関節症など脚長差がある場合は、筋痛症が起きやすいかもしれません)。あなたの腰痛は、生理的トラブルからきています。』