2011年 3月 の投稿一覧

1Gに抗する|ニュースレターNO.260

我々は地球上にいる限り、1Gの重力負荷を受けています。それに抗する筋力がなければ、立つことすらできないでしょう。ベッドに寝ている人は、まず座ることを目指さなければいけません。座ることができれば、立つこと、そして立てれば移動する、階段を上り下りする、歩く、さらにスピードが上がっていけば走り出すことになります。

日常で必要なことは、1Gの重力負荷に抗して立ち、楽に自由に移動できることです。その身体は、正中線を構成する背骨を中心とした体幹の上に頭が乗り、その頭も鼻を正中にして垂直にバランスが取れた状態で乗っていることです。

顔は常に鼻を正中にして垂直に保持しなければいけません。一番上に乗っている重りのバランスが崩れれば、当然脊柱に歪みのストレスを与えることは想像に尽きます。正中を保持した体幹部と頭部を支える根元の最下端部は、仙骨・尾骨です。

頭、胸郭、上肢の重さはすべて骨盤にかかり、座位ではその重さが坐骨結節にかかっています。坐骨結節は左右2つあり、そこに均等に体重がかかっていれば、脊柱を支える土台は安定した状態にあるといえます。ただし、一番上に乗っている頭が正中にあればということになります。

ところが、椅子に座った時、自分の2つの坐骨結節に均等に体重が乗っていることを感じることは少ないです。特に意識することもありませんが、意識してみると、坐骨結節の突き出た2つの骨に乗っていなかったり、どちらかの坐骨結節にしか乗っていなかったりすることが分かります。きっちりバランスよく乗っていないのがほとんどかもしれません。また、椅子やソファーの座面が柔らかいとなおさら、坐骨結節で支えている感じはありません。

左右の2つの坐骨結節を意識するだけで、上半身のバランスを修正することができます。硬い面の上に座り、坐骨結節を感じます。坐骨結節を感じ取れたら、2つの坐骨結節が座面から離れないように、2つの坐骨結節の骨を感じながら上体をいろいろ動かしてみます。

このとき、気をつけなければいけないのは、頭・顔の傾きです。鼻筋を正中に保持したままで、前後左右に上半身を動かします。気持ちのいい方向に動かしていけば、自然にバランスのとれた自然体のポジションに収まるようになっていきます。無理な、きつい方向や動きはしないことです。快適な気持ちのよい動きを繰り返せば、上半身が正中のポジションに戻ります。

坐位での自然体ができれば、次に立位での自然体である直立姿勢を獲得しなければいけません。上半身の正中を支える脊柱の下部にある仙骨は、両サイドから2つの腸骨で挟まれ、仙腸関節を形成しています。立っている限り、常に仙腸関節にストレスが掛かっています。仙腸関節を形成する腸骨は、前面では恥骨結合で軟骨を挟んで向かい合っているので、仙腸関節と恥骨結合部での歪みも考えられます。

この前後の結合部によって骨盤が形成されており、背骨は骨盤が支えているということになります。

その骨盤は、両サイドに股関節の関節窩を持ち、大腿骨と関節を形成して2本の下肢で骨盤を支えています。大腿骨は、下に降りて脛骨と膝関節を形成し、脛骨は下に降りて距骨と足関節を形成し、距骨は踵骨と距踵関節を形成し、踵骨の底面の一部が地面と接しています。これが2本足で直立した状態です。

鼻と脊柱を正中軸にした直立姿勢の獲得が何よりも重要です。肩こり、腰痛、膝痛などは、結局のところこの姿勢が保持されていないために起こると考えられます。

自然な直立姿勢が獲得されれば、重力が骨に対して長軸方向にメカニカルなストレスを加えることになり、骨が細胞のたんぱく合成を刺激することになると考えられています。一般人のトレーニングの目的の一つは、このように骨に対して長軸、すなわち垂直方向のストレスをかけ、骨細胞を刺激することにあります。

もう一つの目的は、抗重力筋に対してストレスをかけることです。1Gに抗することができないということは、すなわち抗重力筋が萎縮していると考えられます。立って常に1Gの重力に抗していないと、重力の作用を強く受ける坑重力筋が萎縮するといわれています。特に、坑重力筋の萎縮は早いといわれています。

通常、たんぱく質は絶えず分解されては合成されています。この分解速度と合成速度が等しいために、筋のサイズが維持されています。これを動的平衡状態といいます。重力が減少した環境下では、たんぱく質の分解速度が合成速度を上回り、0Gでその差が最大になると考えられています。しかし、いずれはその環境下で新しい平行状態で両者が等しくなるといいます。

加重下では、例えば2Gの環境下では、筋のたんぱく質の合成速度が分解速度より早くなり、筋が肣大します。その他の組織ではこの逆のことが起こります。結果的に、体重に対する筋重量の割合が大きく増加します。重力は、質量を保持したり、加速したりするための力発揮を通して力学的ストレスを筋に与えるので、重力の大きさの効果は地上における運動の効果と対比させることができるといいます。

重力の大きさを増すためには、垂直方向のストレスを増やすという考え方ができるのではないでしょうか。この点から、一般人に対する筋力トレーニングの考え方が出てくるのではないでしょうか。キーワードは、「直立姿勢」「垂直負荷」ということになります。その対象は、抗重力筋であり、伸筋です。

筋が萎縮する原因は、筋が活動しない・収縮しないということが原因ではなく、「筋が力を発揮しない」ことがその主な原因といわれています。「力を出す」ことは、筋にとって自らを維持するために重要な刺激となっています。

加齢とともに、筋は萎縮していきます。特に伸筋に顕著にみられます。伸筋には抗重力筋としての機能があります。加齢によって萎縮する傾向の強い筋には、頸部の筋群、僧帽筋下部、広背筋、腹筋群、大臀筋などが挙げられます。しかし、高齢者になり、すでに筋萎縮が深刻な状態にまで進んでいても、適切なトレーニングを行えば筋を再び太くすることができるといわれています。

加齢によって筋が萎縮する原因は、筋線維そのものが萎縮することと、筋線維の数が減少することだといいます。骨を強くするには、大きな垂直負荷や大きな筋力を発揮するスポーツだといわれています。水泳や長距離のような持久系のスポーツでは、ストレスホルモンである副腎皮質ホルモンの分泌が高まり、性ホルモンと融合して骨萎縮を早めるといわれています。

男性ホルモンと女性ホルモンのいずれも骨吸収(骨基質が分解される過程)を抑制し、骨形成をわずかに促進するといわれます。若くてもマラソンのように持久的トレーニングをやり過ぎたり、過激な減量を行うと、性ホルモンの分泌が低下し、ストレスホルモンである副腎皮質ホルモンの分泌が増大し、骨粗鬆症を引き出してしまいます。

昔、増田明美という長距離選手がいました。高校から急激に頭角を現し、5000mからマラソンまで当時驚異的な記録を出し、ロスのオリンピックにも参加しましたが途中棄権に終わりました。選手生命は短かく、20代で終わりましたが、最後は貧血と故障でピリオドとなりました。その時の体はぼろぼろで、貧血と骨は60歳代だと新聞に書かれ、大きな社会問題になったことを思い出します。ただただ減量して走ることしか考えなかった時代の話です。

骨にストレスを与えてもたんぱく質がなければ骨形成できません。このことの典型例です。たんぱく質の分解と合成のバランスが取れた動的平衡状態が必要なのに、シェイプアップではなく、痩せようとして食事制限し、無理な運動をすればこのように骨がぼろぼろになります。それが本当の「痩せた」ということです。

子どもの筋トレ|ニュースレターNO.259

最近は子どものころから筋トレなるものをやらせている指導者も多いようですが、子どもを大人のミニチュアだと勘違いして筋トレをさせていることも多くみられます。子どもの特性を理解し、適切な指導が求められます。

石井直方著:子どもの能力を伸ばす筋力トレーニング(マイコミ2010)は、子どもに筋トレを指導するような環境にある方には、ぜひ読んで十分理解していただきたいと思います。相手のレベルに見合った適切な指導という中で、最も気をつけなければいけない年齢層ですから、プロの指導者にとって当然の理解が必要なことばかり書かれています。以下にポイントとなる一部を抜粋して紹介したいと思います。

『子どものころにしっかりつけられなかった筋力を高校生や大学生になってから強化することはできます。トレーニングによって弱いところを補っていくことは、大人になってからも可能だと思います。ただし筋肉は、解剖学的に大きな分類で分けても身体の中に400、細かく分けると600くらいあり、その400以上ある筋肉を個別に強化することはできません。

基本的なトレーニング種目で集中的に鍛えられる筋肉は、わずかに20くらいでしょう。残りはどうなの?というと、トレーニングの動きの中で、補助的に使われることで強化されたり、多様な動きをする中で強化されたりします。

これらの補助的な役割の筋肉を鍛えることが、果たして全身のパフォーマンスや全身の動きにとって、どれだけプラスになるかというと、すぐに効果が現われることはないと思いますが、筋力のバランスを考えると鍛える意味があります。大人になってからこれらの筋肉を鍛えることは可能ですが、大人になってから行なう筋トレでは、子どものころに行なう筋トレで得られる効果が期待できません。

大人になってからの筋トレでは、ターゲットにした筋肉が重点的に鍛えられますが、子どものころに行なう筋トレでは、それに加えて補助的な役割の筋肉にも刺激を与えられます。

小さいころに筋トレである動きをすると、さまざまな筋肉が働き、本来の正しい筋肉の使い方を覚えられます。そうすれば、大人になってから20程度の筋肉を鍛えたときに、動きの中で補助的な筋肉も働き、バランス良く強化されることになります。

たとえばAという筋肉を使うときはB、C、Dという筋肉も使うことが正しい筋肉の使い方だったとします。それをしっかり身体で覚えておくと、トレーニング種目のターゲットがAだけであっても、Aをトレーニングすることによって、B、C、Dも強化することができます。さらにAを使うスポーツの練習や動きの中でも同様にB、C、Dを強化することができます。

小さいころに正しい筋肉の使い方を覚えることは、バランスのいい筋肉をつくるためにも、すごく大事なことなのです。』

『筋トレ=身長が伸びない、というのは間違いです。逆に身長をより伸ばせる可能性があるのです。もちろん、子ども筋トレで身長が伸びるかどうかと聞かれれば、必ず伸びるとは言い切れません。身長は、そもそも遺伝的な要素が大きく影響します。設計図の範疇を超えて伸びるかと言われると難しいでしょう。ただし、全く効果がないというわけではありません。

骨の縦方向の伸長は成長ホルモンの影響を大きく受けます。

たとえば成長ホルモンの分泌が異常に高くなると、末端肥大症のようにどんどん骨が伸びて身長が高くなることがあります。成長期に、負荷になり過ぎないように筋トレを行なわせると、その子が持っている遺伝的な限界まで身長を伸ばしてくれる可能性があります。もちろん、すべての子どもが遺伝的な限界まで伸びるわけではありません。

必要なときに必要なホルモンが分泌されるという環境があってはじめて、そこまで伸びることになると思います。

成長期に合わせて、上手に筋肉を使ってあげると身長が伸びるということは十分に期待できます。

気をつけることは、成長期のときにジャンプを繰り返すような激しい運動や、重いバーベルや強度の高いマシンを使ったトレーニングは避けることです。骨に対して無理な負荷をかけてしまうと、成長軟骨がつぶれて骨の成長を妨げることになります。外から重い負荷をかけるよりは、自分の体重を使ってじっくり筋力を発揮できるトレーニングをする方が、内分泌系も強く活性化され、背が伸びる刺激になると考えられます。』

『最初に、子ども筋トレには4段階のステップがあることを理解しましょう。発育段階にある子どもの身体は、大人の身体とは全く違うものです。そして同じ子どもといっても、小学校の低学年のころの身体と高校生の身体はやはり違う状態にあります。子ども筋トレの内容も、その発育段階に合わせて変えていく必要があります。ターゲットとする主な筋肉は足、お尻、体幹であることに変わりありませんが、身体の発育段階に合わせて目的も負荷のかけ方も異なってきます。

子ども筋トレのステップは、次の4段階に分けるとよいと思います。

第1段階 幼児期から小学校に入学するまで
第2段階 小学校低学年から中学年(ゴールデンエイジ)
第3段階 小学校高学年から中学生(成長期)
第4段階 高校生

幼児期から小学校に入るまでの第1段階の目的は、立ち上がる、しゃがむ、歩く、走る、ぶら下がる、押す、引くといった基本的な動作での筋肉の使い方を覚えることです。

ジャンプする、転がるといった応用動作まで身につけることができれば完壁です。筋肉を鍛えるというよりは、正しい筋肉の使い方や関節の使い方を脳にプログラムし、そのために必要な筋力をつけることを目標とします。そして、筋トレをさせた後は、できるだけ外で身体を使って遊ばせるようにしましょう。

この時期の筋力アップのポイントは、どれだけ身体を使って遊ぶことができたかどうか。単純動作を何度も繰り返すことが苦手な時期なので、筋トレだけで筋力をつけるのは難しいと思います。

小学校の低学年から中学年のころの第2段階は、ゴールデンエイジの時期と重なります。たくさんの運動プログラムを獲得できるピークのころなので、幼児期以上に身体を使って遊ばせることが大切になります。スポーツを始めさせる時期としても最適です。

幼児期に基本的な身体の動かし方を身につけていると、驚くほどのスピードでいろんな動作を身につけることができるでしょう。この時期の筋トレの目的も、幼児期と同じように正しい筋肉の使い方や関節の使い方を覚えることになります。この段階でも、まだ負荷をかけるということは意識する必要はありません。

小学校の体育の授業やスポーツの中で行なう動作は、幼児期のころに覚えた基本的な動作とは異なる人工的な動作が多くなります。跳び箱もマット運動も、縄跳びもそうですし、スポーツではそのスポーツ独特の動きが求められるようになります。そうした動作から、新たな運動プログラムを獲得するためにも、基本的な動作を繰り返すことが大切なのです。

小学校の高学年から中学生の第3段階になると、速筋線維と遅筋線維という筋肉の機能分化が生じた後になるので、大人と同じような筋トレ効果が尐しずつ期待できるようになります。といっても、成長期と重なる時期ですから、いきなり大きな負荷をかけると成長を阻害することになるし、ケガをすることもあります。

自分の体重以上の負荷をかける場合は、まず水を入れたペットボトルやチューブを使うことから始めるべきでしょう。中学校に入ったら、バーベルを利用しても構いません。それでも、できるだけ軽い負荷にとどめ、正しいフォームを身につけることを心掛けましょう。

第4殺階の高校生になったら、大人と同じような筋トレにシフトして構いません。この段階になったら、筋肉を強化することをしっかり念頭においてトレーニングするようにしましょう。バーベルを使っても、マシンを使っても構いません。ただし、正しい知識を持った指導者が必要です。筋トレによって、筋肉が太く、強くなっていくのが自分で確認できるようになります。

大人と同じような筋トレの効果が期待できるようになります。ただし、第4段階でそうした効果が期待できるのは、幼児期の第1段階からステップアップしてきた人や、子ども筋トレの必要性がないくらいに十分な身体をつくれてきた人たちに限ります。高校生になれば誰でも大人のような筋トレができるというわけではないので注意しましょう。』