免疫不全について|ニュースレターNO.103


 

著者:伊藤 出パーソナルトレーナー / IDEALSTYLE代表

パーソナルトレーナー歴11年|元三笠宮寛仁親王殿下のパーソナルトレーナーであった魚住廣信名誉教授に師事|指導経歴:宝塚歌劇団員・三菱重工神戸野球部員・ボクシングミニマム級5位など|アスリートフードマイスター&元板前。

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6月にマトヴェーエフ氏に御会いした時、免疫不全に付いていろいろ話を伺いました。特に、オーバートレーニングに陥ることなく、選手を育成することが大事であり、そのために免疫不全について十分な理解が必要であると感じていたからです。その時に紹介された論文があります。

「スポーツの理論と実践」誌2003年1月号に掲載されたスズダリニツキーの「スポーツのストレス因子による免疫不全をどう理解すべきか-新しいアプローチ」という論文です。

免疫機能については、セリエの適応理論が有名ですが、その理論に誤りがあると指摘し、新たな理論構築を打ち出しものです。特にスポーツ選手に関しての研究であり、大いに役立つ情報であると思います。原文はロシア語であり、それを訳していただいたものを全文(原文はA4で5頁)紹介するわけには行きませんが、ポイントとなるところをいくつか紹介したいと思います。

『人間の免疫システムが、身体への負担に対して、どう適応するか、その全体的な傾向を解明すると、セリエはストレス反応として警告反応期、抵抗期、疲憊期という3つの段階があるとしたが、スズダリニツキーは、スポーツ選手の免疫の状態は身体への負担に応じて、一定の変化を示すことから、変化には少なくとも次の4つの段階があるという。

 

1.動員の段階

この段階の特徴は、免疫のいくつかの指標が、高まることである。このことは何よりも、生理学的なリザーヴ(予備力)が大々的に動因されたことを意味する。急性の呼吸器病の数は、最小レベルにまで下がり、全体として気分と活動能力は、いちじるしく向上する。

 

2.代償の段階

この段階は、負担の強度が増す時期に現れる。この段階が身体にもたらすおもな「効果」は、つぎのようなものである。免疫のある指標が高まる代償として、他の指標が低下する。その結果、ほとんどの免疫反応が低下していく傾向がでてくる。しかし、生理学的な防衛機能は、まだ、事実上同じ水準にある。これは、免疫メカニズムの予備力が、動員されているためである。そのために、発病率は、前の段階(動因の段階)に比べて、はっきりした差はない。

 

3.代償不全の段階

大きな負担が加えられる時期にみられる。つまり、負担がMAXの80~90%に達する時期である。この段階の基本的な特徴は、すべての免疫の指標が、急激に下がることである。とくに激しい変化を示すのは、局部的な免疫の指標である。免疫システムの予備力は、ほとんど消耗しかかっている。発病率はピークに達する。というわけで、身体は、免疫上の危機にある。なぜなら、二次的免疫不全が起きているからである

 

4.回復の段階

競技後の時期、すなわち、負担が激減するときに現れる。また、つぎのトレーニング・サイクルの初期にもみられる。免疫の状態は、徐々に最初の水準にもどる(あるいは、ほとんどもどる)。』

『上に述べたわれわれのコンセプト、そして、多年にわたりスポーツ選手の免疫不全を2500例以上分析してきたおかげで、ここで初めて以下の分類を呈示することができる。それは、スポーツのストレス因子による免疫不全をその発生のメカニズムと発生にかかる時間に基づいて分類したものである。

それによると、スポーツ活動にともなう免疫不全としては、少なくとも3タイプが存在する。

 

1.免疫不全の第1のタイプ

第1のタイプは、発生するときに、「吸着」のメカニズムと関係する。われわれは、このタイプをくわし
く調べたことがある。それは、つぎの現象を研究した際のことであった。すなわち、「免疫グロブリンと正常な抗体が、完全に消滅する現象」である。

過剰な負担によって、血液中に乳酸と尿素が大量に蓄積される。これらは、代謝で生じる中間的な物質である。その結果、酸性・アルカリ性のバランスが酸性の方向にぐっと傾く。そして、体温がいちじるしく上昇。―こうしたことが引き金になって、proteaseを含むいくつかの酵素が活性化する。

それらの酵素は、免疫グロブリン分子を破壊し、小さな断片にしてしまうことができる。そうなると、免疫グロブリンのレベルが下がる―というわけである。

また、pHの変化にともない、免疫活性ホルモン(複数種)が、よけい放出されるようになる。それらは、アルブミン、グロブリンと結びつきうる。だから、このプロセスにより免疫グロブリンのレベルがもっと低下する。

・・・この免疫不全のタイプを、われわれは「急速なタイプ」と呼んでいる。

 

 

2.免疫不全の第2のタイプ

これは、「代償の段階」が長時間続くことによって生じる。すでに述べたとおり、この段階の基本的な特徴は、免疫の各々の指標が別々の方向に変化していくことにある。つまり、ある指標は高まり、別のそれは低下する。そうなることで、一定の免疫効果をもたらすということである。

具体的にいうと、血清中のタンパク質含有量は全体的に減る。これは、おもにアルブミンの「代償」である。グロブリンはいくらか増える。免疫グロブリンAは、G、Mと比べると増加する。

また、タンパク質代謝のありかたも変わり、異化作用するようになる。すべての免疫反応が低下傾向を示し、例外は血清および血清中の補体の殺菌力だけである。それらの殺菌力は、粘膜の殺菌力と同じく高まるのである。

・・・われわれは、つぎのようなケースを「潜在的な」免疫不全と呼ぶことを提案する。すなわち、「代償の段階」で、3つ以上の免疫の指標が低下する。そして、上に挙げたような変化が十分はっきりと現れる―こうした場合である。

 

3.免疫不全の第3のタイプ

これは、「遅い」タイプと名付けることができる。「代償の段階」で始まったネガティヴなプロセスがさらに進み、免疫システムの環が一つ、またはいくつか壊れることで終わる―こうした経過で、このタイプは発生する。

免疫における細胞のファクターを調べてみると、つぎのようなことが起きているのが分かる。つまり、好中球(中性好性白血球)の食菌作用が急激に低下しだしているのである。われわれが明らかにしたところでは、ゼロ・リンパ細胞と好中球のプールがなくなっていく。

そして、それらすべての細胞はソケット型細胞に変わってしまう。

・・・

以上、免疫不全の3つのタイプをみてみると、つぎの現象が何を意味するかが分かってくる。すなわち、筋肉にストレスが加わったとき、あるいは、心理的ストレスを受けたときに大量のソケット型細胞が発生する現象である。

これは、循環する免疫グロブリンが体液(血液と分泌物)から急激に消えたこと、そして、長期にわたり免疫をつかさどる細胞の機能が抑えられてしまったこと―こうした2つのメカニズムが作動した可能性を示唆する。どちらのメカニズムも、二次的免疫不全発生をうながすことになる。

さらにまた、ゼロ細胞のプールがなくなっていく、そして、それらすべての細胞がソケット型細胞に変わってしまう―この現象はどうか? これまた、免疫上の適応を損なう要因である。

というのは、この現象は以下のように考えることができるからである。つまり、その身体がストレスを受けるなかで、免疫システムにおける最後の予備力(細胞による)を使い果たした、ということである。

さらにつづけて身体に異常な作用が加わると、どうなるか―。その身体で最ももろい免疫の環なら、どんな環でも損傷する可能性がある(例えば、細胞なら、T、B細胞によるシステム、両者の相互関係、インターフェロンの状態など)。こうした段階になると、これはもう多くの研究者が免疫不全状態が始まったと考える。つまり、彼らはこの段階をもって免疫不全状態の最初のしるしとしている。

しかしながら、われわれの見解では、これはすでに末期状態である。すなわち、免疫の調整システムに起きた不均衡は、もういくところまでいっている。適応のための予備力は使い果たされ、システムにおける個々の要素の関係、および各システム間の関係は断絶してしまっている。

われわれの経験によれば、おもにスピード・パワー系の運動(脈拍が速い)からなる種目では、「急速な」免疫不全が最も一般的だと考えることができる。

一方、持久性の優越した種目(脈拍は、より適切な速度になる)では、「遅い」免疫不全が広くみられる。とはいうものの、はっきりそうだとは言い切れない。つまり、ある選手には特定の免疫不全が起きる―そういう明確な法則性があるわけではない。

トレーニング、試合のもろもろの条件によって、また、いくつもの外的条件、内的な生理学上の理由により、いく人かの選手たちには、3タイプの免疫不全すべてがみられたのである。』

『スポーツのストレス因子による免疫不全―これは、特殊な現象である。というのは、単に免疫システムに多数の損傷が起きているだけではない。神経・内分泌系の調節機能に異変が生じ、身体を形成する栄養物(ミネラル、ビタミン、微量元素など)も足りなくなる―こうした状態であるからである。

では、予防効果を上げるにはどうすればよいか―。とくに「代償」の段階では、免疫システム調整のために、つぎのような総合薬剤を投与するのが効果的である。すなわち、適応性向上薬(アダプトゲン)、複合ビタミン、微量元素、吸収性のすぐれたタンパク質、免疫を活性化させる代謝物質、等々である。

こうした種類の予防措置、および回復措置をわれわれは「外的」調節と呼んでいる。なぜなら、そこで用いられる薬剤は、免疫システムの「環」に直接作用するわけではないからである。

おもに「吸着」メカニズムによって「急速な」免疫不全が生じているケースでは、どういう措置をとるか。そういう場合は、複合エンチームの混ざった薬剤を与えることができる。例えば、vobenzimだ。ポリ・エンチーム剤は、他の多くの薬剤に比べると、「吸着」の度合いを下げることができる。

つまり、免疫グロブリンの血液本来の要素への吸着である。この吸着が起こってしまうと、その「代償」として受容器のつながりが悪くなる。また同時に、吸着してしまったものを分離するようにうながすこともある程度可能である。われわれは、特別に実験を行って以上のことを突きとめたのである。

免疫における細胞、その他の「環」で異常が起きている場合はどうか。「外的」調節の薬剤とともに、システムに直接作用する薬を使うことができる。すなわち、免疫をつかさどる細胞と、その連携プロセスに直接作用を及ぼす薬である。その意味で、「内的」調節の薬剤と呼ぶことができる(具体的な薬剤としては、tactivinum、ミエロニド、interleukins、neuropeptide、インターフェロンその他

だが、いちばん予防効果が上がるのは、われわれ自身が開発し特許権をとった薬である。これは、その人の血液でつくる薬剤である。薬学では、薬剤を2通りに分類する。人間の身体から製造したものと、それ以外の物質からつくったものである。後者はたいへんな種類にのぼり、しかも年々増えている。

前者の数は、きわめて少ない。というのは、この方法で薬を製造しようとすると、多くの場合、非常な困難にぶつかるからである。われわれのケースでは、そのコンセプトはつぎのようなものだった。つまり、「自分の物質」(P.V.ペトロフの用語)を、すなわち、自身の細胞や組織を処方することで、身体の内的可能性を最大限動員しよう、ということである。

ウィリースは、その著書「生化学における個人差」のなかで、こう書いている。身体内の物質は、個人ごとに違いがある。タンパク質、脂肪、酵素、糖、そして、それらの変化のしかた―。これらはみな、質・量ともに、個人ごとに異なる。著者によると、こうした事情があるため、薬学のこの方面は、最も有望なものの一つだという。

実際、われわれの薬(自分の血清から製造する薬剤)は、他者から提供された血液やγ(ガンマ)-グロブリンとは違って、「感作(かんさ)」を引きおこすことがない。

したがって、何度でも用いることができる。このことは、スポーツ選手にとってはきわめて大きな意味をもつ。なぜなら、現在では重要な試合が実質的に1年中行われるからである。もうひとつ大事なのは、薬の毒性によって副作用が起きることがない。当然、ドーピングの面でも、完全にクリーンである。

われわれが、その人自身の血清を「免疫促進剤」として利用することにしたのは、つぎのような事情による。理論と実験の両面から、以下のことが裏付けられたのである。つまり、低分子のタンパク質とペプチドは、免疫システムの機能をいちじるしく促進させる、ということである。』

ドーピングの問題は、単に興奮を高めたり、筋肉を増強しようとすることから発生したものではありません。競技レベルが上がり、年々ハイレベルなトレーニングを重ねる必要性が出てきたことから、免疫機能の障害を起こし、オーバートレーニングに陥込んだり、その状態から回復しようとする、またオーバートレーニングを予防するための手段でもあったわけです。

それがいつのまにか記録を出すための魔法のクスリに変わってしまったことが原因と思われます。身体の回復を目指したことが、逆に身体を廃人に追い込むことになってしまたことは悲しいことです。

しかし、これからはトレーニング方法だけでなく、競技レベルが上がるほど疲労回復についてもっと真剣に対策を考えていく必要があります。この方面での研究が今後期待されます。

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