バランスを崩す|ニュースレターNO.237


 

著者:伊藤 出パーソナルトレーナー / IDEALSTYLE代表

パーソナルトレーナー歴11年|元三笠宮寛仁親王殿下のパーソナルトレーナーであった魚住廣信名誉教授に師事|指導経歴:宝塚歌劇団員・三菱重工神戸野球部員・ボクシングミニマム級5位など|アスリートフードマイスター&元板前。

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先般歩いているときに、ふとバランスのことが気になりました。速く歩くときは、バランスを崩したほうが歩きやすいのではないかと思ったのです。ということは、走ることも同様に、いかにバランスを崩すかが問題なのではないかと思いました。それでバランスについて次のような考え方をしてみました。

バランスとは釣り合いが取れている状態のことを言います。辞書によると、均衡、平衡、調和ということになっています。このバランスをスポーツパフォーマンスについて考えてみるといろんな発想が出てきます。

たとえば、走ることを考えてみると、バランスがとれているということは進まない立位の姿勢であるのではないかと考えられます。前後左右に、手足のバランスがとれていれば、重心は一点に留まり、すなわち進まないことを意味することになるではないでしょうか。では前に進むためにはどうすればよいのでしょうか。それはバランスを崩して、それも前方の進む方向にバランスを崩していくことです。そうすれば自然にバランスの崩れた方向に重心が傾いて進むはずです。

したがって、速く進むためにはスムーズに前方へバランスを崩し続けなければいけないと考えられます。そうすると、速く走るためには前方へ直線的にバランスを崩す練習をしなければいけないということになります。すなわち、バランスをとる練習ではなく、バランスを崩す練習をするということです。

そして、バランスを崩した状態で何かをするということや、崩れたバランスを元に戻そうとする必要はないということです。ひたすら進む方向へバランスを崩し続けることが走るということになるのではないでしょうか。実に面白い考え方です。

では、左右の腕振りが同じでバランスの取れた腕振りと左右の腕振りが異なるアンバランスな腕振りはどう考えたらいいでしょうか。まず左右の腕振りが異なるアンバランスな腕振りでは、重心は前方へ進みにくいと想像できます。また前後にバランス良く振る腕振りも、前後にバランスがとれているのでこれも重心が前方に進みにくいと考えられます。やはり前方に意識して腕を振りだしていくことがよいのではないかと考えられます。

このように考えると、スプリントの練習方法も考える必要が出てきます。まず前方に動きながらのドリルが必要だと考えられます。常に前に進むという感覚を持って行えるドリルを考える必要があります。それもバランスを取りながらではなく、バランスを前方に崩しながらであり、走る場合には左右にバランスを崩すことは考えられないので、とにかく前方にバランスを崩すことです。

その進み方はバランスを崩す程度によると考えられるので、重心を高くしておくことが絶対に必要になるのではないでしょうか。重心が高いほど、崩れた際に重心の移動距離が長くなると考えられます。こんな考え方も面白いですね。

競技種目によって、バランスを全く崩さないパフォーマンスもあれば、バランスを崩して最後には、バランスをとって静止する競技もあります。器械体操などがそうですね。スポーツパフォーマンスにおいてバランスの考え方は、「バランスを崩さない」、「バランスを崩し続ける」「バランスを崩し、バランスをとって静止する」という3つの場合が考えられるのではないでしょうか。

したがって、「バランスを崩した状態で何かをする」という状況は考えられないということになります。バランストレーニングでよく間違われるのは、このことです。バランスを崩した状態で負荷をかけて何かエクササイズさせるということは考えられないのではないかということです。不安定な状態で何かのエクササイズをさせるということがあれば、その目的とその意味を考え直してみる必要があると思います。

バランスが崩れたら生体は、当然防御反応が働いてバランスを取り戻そうとするはずです。それをせずに崩れた状態を維持したり、その状態で何かをしようとすることは考えられません。崩れた状態を維持することと、崩し続けて移動することは全く異なります。このあたりのことを十分検討してみる必要があります。

静止が大事なことなのか、早く・スムーズに移動することが大事なのかということです。その違いがわからなければ、アスリートにとってバランストレーニングがマイナスに働くことも考えられるということです。一般の方の体力づくりでも同様です。

現場を見ていると、むずかしいエクササイズというか、むずかしい動作をやらせすぎのようにも思います。なぜ不安定なところや不安定な状態でエクササイズさせる必要があるのか考えてみることです。目的があって、方法があるわけです。Simple is best. の考え方がほしいところです。

シンプルなものの組み合わせが複雑なものであるわけですから、アスリートに対しても、一般人に対してもトレーニングの目的に対して最もシンプルなエクササイズから始めるべきだと思います。そうすると、今度は何がシンプルなのかという問題が出てきます。結局は、シンプルが分かってこそ、複雑なものが分かるということであり、物事の本質がわかってこそ応用がきくということと同じ考え方になると思います。

筋力トレーニングのエクササイズにしてもストレッチングにしても複雑な動作が多すぎます。そのために目的を達成できないトレーニングやストレッチ・ストレッチングになっていることが多いようです。基本、本質ということがいかにシンプルに説明できるか、また指導できるかということが指導者の技量を評価する基準になるかもしれませんね。

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